■ 飯坂温泉の我が定宿
福島飯坂ICで東北道を降りたのは、夜の10時過ぎ。こんな時間にもかかわらず、飯
坂温泉の「H屋旅館」に電話して、「あのー、今、福島飯坂のインターなんですが、泊め
てもらえますか‥‥」と頼むカソリ。「カソリさんですか、どうぞ、どうぞ」と「H屋旅
館」の奥さんは、うれしいことをいってくれる。飯坂温泉駅のすぐ近くにある「H屋旅館
」に着くと、すぐさま熱〜い湯につかる。まさに至福の時。この「H屋旅館」には今まで
何度も泊まっているので、こんな無理を聞いてくれたのだ。このような“我が定宿”を日
本中に持っていると旅がすごく楽しくなるというものだ。
■ 栗子峠と板谷峠
翌朝は宿で朝食をいただき、国道13号で山形県境に向かう。阿武隈川流域の、“中通
り”の盆地の町、福島を離れるとすぐに山形県境に向かっての登りがはじまる。全長23
76メートルの東栗子トンネルを抜けたところで山形県に入る。そこで国道13号を左折
し、板谷峠下の集落、板谷へ。奥羽本線が通り、ここには板谷駅がある。板谷峠を越えな
がら、吾妻連峰北麓の秘湯群に入ろうと思うのだ。
ところで国道13号の峠だが、東栗子トンネルを抜け出て山形県に入ると、もうひとつ
、全長2675メートルの西栗子トンネルを抜けるが、それが奥羽山脈の中央分水嶺の峠
を貫くトンネルになっている。この2本のトンネルは昭和41年(1966年)に完成し
たが、それ以前の国道13号は、北の栗子山南麓の栗子峠を越えていた。さらにそれ以前
の峠というのが、板谷峠なのだ。
■ 吾妻連峰北麓の秘湯3湯
吾妻連峰北麓の秘湯めぐりの第1湯目は1軒宿の五色温泉だ。板谷からかなり登り、5
キロほど行ったところにある。ここでは露天風呂に入った。樹林に囲まれた露天風呂で、
湯につかりながらの森林浴がすごく気持ちいい。
第2湯目は滑川温泉。板谷に戻ると、板谷峠に向かって登っていく。峠の手前で左に折
れ、萱峠を越えていく。1軒宿の「福島屋旅館」では混浴の大浴場と混浴の露天風呂に入
った。時間があればの話が、ここでのおすすめは滑川大滝。30分ほど山道を登ると、滝
見の展望台に出る。さらに30分ほど歩くと、滝壺まで下れる。
第3湯目は姥湯温泉。滑川温泉からさらに奥へ、4キロほど行った行き止まり地点に1
軒宿の「枡形屋旅館」がある。日本有数の秘湯だ。ここでは混浴の大露天風呂に入った。
まわりを断崖絶壁に囲まれているが、運がいいと、急崖を駆けるニホンカモシカの姿を見
られる。
最後に奥羽本線の「峠駅」まで行き、駅前の「峠の茶屋」で名物「峠の力餅」を食べる
。中に餡の入った餅。ここの搗きたての餅の入った各種雑煮もうまい。こんこんとわき出
る清水もうまい水だ!
■ 旧羽州街道の板谷峠
吾妻連峰北麓の秘湯3湯に入ったあと、標高760メートルの板谷峠を越える。旧羽州
街道の峠で、江戸時代には、米沢藩の参勤交代路。福島盆地と米沢盆地を結ぶ一番の幹線
になっていた。それが明治になると、北の栗子峠を越える“万世大路”が完成し、板谷峠
はあっというまに忘れられた存在になってしまう。交通量はきわめて少なく、峠をはさん
で約5キロ間はダートだ。そんなダートの板谷峠にバイクを停め、しばし峠の歴史に想い
を馳せるのもいいものだ。
■ 温泉で眺める「つばさ」
中央分水嶺の板谷峠を越えると、阿武隈川の水系から最上川の水系に入っていく。ダー
トから舗装路に変わるあたりには1軒宿の笠松鉱泉がある。一見すると、民家風の温泉宿
で通り過ぎてしまいそうだが、こんな宿に泊まるのもいい。ぼくは以前、秋に泊まったこ
とがあるが、夕食には松茸やアケビなど山の幸がふんだんに出た。
板谷峠下の集落、大沢を過ぎ、米沢盆地に入りかかるあたりには、湯ノ沢温泉がある。
1軒宿「すみれ荘」の大浴場の湯につかっていると、窓越しに、山形新幹線の「つばさ」
が通りすぎていく。湯につかりながら眺める「つばさ」というのもいい。
■ 日本の秘湯、大平温泉
湯ノ沢温泉の湯から上がると、米沢の中心街に入っていく前に、「板谷峠越え」のルー
ト上では一番の秘湯、大平温泉に向かう。この大平温泉はカソリの“日本の秘湯番付”で
は姥湯温泉よりも上位で、日本屈指の秘湯といっていい。
一面の水田の広がる米沢盆地から一気に吾妻連峰北麓の山中に入り、最奥の集落、大平
へ。そこからさらに7キロ(半分はダート)登り、駐車場にバイクを停める。駐車場から
20分ほど山道を歩くのだが、行きはまだいい。最上川源流の谷に向かって急坂を下って
いくからだ。
1軒宿の「滝見旅館」に着くと、巨岩を組み合わせてつくった露天風呂に入る。目の前
の、激流が岩をかみ、白い渦を巻いて流れる最上川源流が迫力満点だ。大満足して湯から
上がったまではいいのだが、帰り道がきつい。急坂をヒーヒーハーハーいって登る。駐車
場のバイクにたどり着くころには頭から水をかぶったようなものすごい汗‥‥。
■ 米沢の上杉神社
米沢に着くと、米沢駅前の「東洋館」でステーキ定食を食べる。さすが“米沢牛”だけ
あって、ひと味ちがう。そのあと米沢藩の藩祖、上杉謙信をまつる上杉神社を参拝する。
上杉神社のある松岬公園は米沢城址。ここには堀や土塁が残されている。園内には上杉謙
信の像が建っている。江戸中後期の米沢藩の名藩主、上杉鷹山の像もある。ここはあまり
知られていないが、伊達政宗の誕生の地でもある。上杉神社の参拝を終えると、神社前の
茶店で今度は“米沢牛”の串焼きを食べた。これがなかなかのいける味だ。それに隣り合
って米沢牛専門の「米沢紀伊国屋」がある。ここで土産に買った「牛たんスモーク」は最
高のうまさだった。
■ 大峠越え
米沢からは国道121号で会津若松に向かう。その途中、平安時代初期の絶世の美女、
小野小町ゆかりの小野川温泉に立ち寄る。ここの共同浴場「尼湯」はおすすめの立ち寄り
湯。温泉情緒あふれる湯だ。
国道121号の山形福島県境の峠は大峠。新道の大峠トンネル(全長3940m)の完
成によって「米沢−会津若松」間は劇的に変わった。旧道の時代の峠道はダート国道で、
国道にもかかわらず、けっこうハードなダートコース。冬期間は閉鎖されていた。それが
今では大峠トンネルとその周辺のいくつかの連続するトンネルで、県境の峠を一気に越え
ていく。
大峠を越えて福島県側に入ると、国道沿いには日中ダム下の日中温泉と熱塩温泉の2湯
がある。最後に「大峠越えルート」定番の、喜多方の「喜多方ラーメン」を食べ、会津若
松ICで磐越道に入った。