■ 海がまぶしい快走路
爽やかな潮風を全身に受け、明るい日差しを浴びながら海沿いの道を行く……いろいろな
ツーリングシチュエーションがあるが、そんなツーリングは、身も心も軽やかにしてくれる。
できれば、ゴールドコーストやコートダジュールあたりの海岸を走りたいところだけれど、
それに匹敵するような、爽快なコースが日本にもある。今回お勧めする渥美半島縦断、
伊勢湾岸コースは、そんなコースの一つ。
東名浜松ICから片側二車線の広々としたR1を南下して行くと、次第に海の匂いが強まってくる。
匂いといっても磯の香りのような明確なものではなく、土地が開け、空気が爽やかになって、
広大な砂浜がその先に展開していることを予感させる、五感全てにぶつかってくる「海の感じ」だ。
ぼくは、100kmにも及ぶ長大な砂浜が広がる鹿島灘の一角に育ったせいか、
初めての土地に行っても、その先に明るい砂浜があれば、そこに出る前にその存在を強く感じることができる。
今、ぼくが向かっている遠州灘は、まさにぼくの故郷である鹿島灘と同じ長大な砂浜の海岸線で、
その「海の感じ」は、たまらなく懐かしさを掻き立てる。
そのまま道なりに真っ直ぐ南下して海に出れば、そこは日本三大砂丘の一つ中田島砂丘(中部北陸16F5)。
昔のオフロードフリークにとっては、馴染みの深い場所だ。ぼくも、かつてデザートレースに燃えていたときは、
ここでよく練習したものだ。今は、砂丘内を自由に走ることはできなくなってしまったけれど、
日本離れしたスケールの砂丘は、見ているだけでも飽きない。
R1をさらに進むと、浜松バイパスから浜名バイパスへ入る。
しばらく進むと、左手に白い波の打ち寄せる遠州灘、右手に波静かな浜名湖に挟まれた橋を通過する(中部北陸16C4)。
全身で海を感じる最高のシチュエーションだ。
渥美半島の基部からR42に入ると、海からは少し離れてしまうが、
松林越しにチラチラと垣間見える海の青もそれなりに雰囲気がある。
豊橋市のあたりの砂浜はアカウミガメの産卵地になっていて、もちろん、車両は進入禁止。
5月〜7月にかけて、夜の間に上陸し、砂浜に卵を産み落とす親ガメを見ることができる。
豊橋から赤羽根町にかけてのR42沿いでは、季節の果物を売る露天もよく見られる。
夏場ならメロンやスイカ、秋口にはナシがよく売られている。また、このあたりは電照菊の産地でもあり、
10月頃、夜にこのあたりを走ると、光の海の中を行くような幻想的な雰囲気に浸ることができる。
■ 南国情緒いっぱいの伊良湖岬
遠州灘沿いのR42から、いったん内陸に入る。そして、田原町へ。
この町の名物「あさりせんべい」を道の駅田原めっくんはうす(中部北陸15D5)で買う。
こぶりなあさりが、そのままプレスされてせんべいになっていて、とても香ばしい。
海の幸でも、新鮮なものはツーリングの途中で買って持ち歩くのが難しいけれど、
こういった素朴な菓子や乾物はツーリングのお土産にちょうどいい。
田原町からR42には戻らず、三河湾沿いのR259へ出て伊良湖方面へ向かう。
三河湾は波荒い外海の遠州灘とは対照的に、静かに凪いで、長閑な雰囲気。
対岸の蒲郡や知多半島、その間に浮かぶ島や湾内を行き交う船が見える。
そのまま渥美町の開拓地の中にある国民宿舎「伊良湖岬信州」(中部北陸14G6)に向かう。
明るい松林に囲まれた静かな環境の中にある。東京をゆっくり出発したので、
一日目は、ここに宿泊して疲れを癒すことにする。何故、伊良湖岬にあるのに「信州」なのかというと、
海のない飯田市を中心とした南長野の自治体が、海のレジャーを住民に楽しんでもらうために設置した宿舎だから。
この日も、ちょうど夏休みということもあって、地元長野の高校生たちが、臨海合宿で泊まっていて、とても賑やかだった。
翌朝、宿からそのまま海べりの道を行き、伊良湖岬へ。
いったん岬を通り過ぎ、R42を2kmほど行くと、日出の石門入口(中部北陸10G1)がある。
足を降ろすとフナムシがワサワサと動き回る急な階段を下りて海岸に出ると、大波が岩を打ち、
豪快な音と波しぶきをあげている。その中、大きな岩だなに、ぽっかりと大穴が開いている。
これが「日出の石門」で、東を向いて海に面して真っ直ぐに開いた穴からは、朝日を拝むことができる。
一人で野宿するには、ワイルドすぎて気味が悪いが、何人かで賑やかに夜明かしして朝日を拝むなら楽しそうだ。
日出の石門から伊良湖岬に戻る途中に恋路ヶ浜(中部北陸10F1)がある。
磯に挟まれた白い砂浜は、こじんまりとしていて、まさにカップルで散歩するのにうってつけ。
一人旅のぼくはというと、浜に並ぶ海の家で焼ける伊良湖名物「焼き大アサリ」のほうについつい足が向いてしまう。
伊良湖岬周辺は、磯と砂浜がうまいバランスで入り混じったところで、
渥美半島の突端にあってアクセスが容易でないこともあって、自然そのままの景観が多く残っている。
海流に乗った椰子の実が流れ着き、それを歌に詠んだ島崎藤村の句碑が日出の石門へ降りる途中にあったり、
三島由紀夫の「潮騒」の舞台となった神島が間近に拝めたり、岬周辺は南国ムードに包まれている。
■ 海の国道を渡り、神様の里へ
道の駅「クリスタルポルト」(中部北陸10F1)の中にある券売所で、鳥羽へ渡る伊勢湾フェリーのチケットを買う。
今回はX11なので750cc以上の料金2730円(バイク、ライダー込み)。
ちなみに、125cc以下なら1890円、750cc未満は2300円。60分あまりの船旅だ。
ここからは、知多半島との間を結ぶ名鉄フェリーもある。
フェリーの出発時間までの間、売店で400円也の名物「焼き大アサリ」を食べる。
プリプリの身にジューシーな汁がいっぱい。これだけで、じゅうぶん一食分のボリュームがある。
伊勢湾フェリーは、別名「海の国道」とも呼ばれている。
それは、海を挟んで渥美半島と紀伊半島を走るR42をこの航路が結んでいるためで、
唯一、自走せずに進めてしまう国道になっているわけだ。
伊良湖岬が南国から流れ着いた椰子の実に遠くの島を連想させるノスタルジックな雰囲気なのに対して、
伊勢湾を渡り、小島の間を縫って鳥羽に上陸すると、いかにも日本の漁村といった感じの親しみやすさに包まれる。
時間があれば、世界初の真珠の養殖に成功したミキモト真珠島(中部北陸10B4)やパールロードを辿って、
カキの美味しい的矢や志摩のほうまで足を伸ばしてみるといい。
今回紹介するルートでは、伊勢神宮をメインにしているので、そちらのほうまでは足を伸ばさないが、
せっかく海産物の美味しい鳥羽にいるのだからと、ちょっとパールロード方面に走って、昼食にした。
お勧めは、生簀で泳ぐ魚をすくって調理してくれる海産物レストラン「ビッグ・シードーム」(中部北陸10B5)
と老舗の海鮮割烹「たまも」(中部北陸10B5)。ぼくは「たまも」で、海鮮丼(1800円也)をいただいた。
さて、腹がくちたらR42を伊勢方面へ向かう。最短ルートは伊勢二見鳥羽ラインだが、ここは律儀に一般道を走る。
こちらを行けば、二見の夫婦岩(中部北陸10A3)が見物できる。
縁結び象徴は、カップルツーリングにはお勧めかも。
この近くには戦国時代村(中部北陸10A4)というテーマパークもある。
こちらも、時間があれば覗いてみるといいスポット。
さて、伊勢神宮に参拝する前に、R42をそのまま伊勢市内のほうに進んで、
地元の人お勧めの二軒茶屋餅(中部北陸9G4)をいただく。伊勢といえば「赤福」と言われるくらい
「赤福餅」はメジャーだが、こちらの「二軒茶屋餅」も古くから伊勢への参拝客に親しまれてきたお菓子なのだ。
二軒茶屋餅と道を挟んで、同じ経営の地ビールレストラン「麦酒蔵」がある。こちらのランチもお勧め。
伊勢神宮は、いわずと知れた日本でもっとも由緒正しい神社。2000にも及ぶ歴史を誇り、
20年毎に行われる式年遷宮でも有名だ。伊勢神宮は伊勢市の中心から南西の山田原にある豊受大神宮(外宮)
(中部北陸9G4)と南東の五十鈴川の辺に位置する皇大神宮(内宮)(中部北陸9G5)から成る。
参拝の順路は、外宮から先にお参りするのが正式。外宮の神様は豊受大御神で、
内宮の神様である天照大神の食事を司るといわれている。
正式な御神体の天照大神を最後にご参拝するわけだ。
ぼくは、政治的にあくまで中立だけど、伊勢神宮に参拝する度に、とても敬虔な気持ちを抱かせられる。
神社というところは、そもそも有史以前のプリミティヴな信仰、
アニミズムに基づく信仰を集めた場所に建てられていることが多く、
伊勢神宮ほどの歴史と格式を持つ神社となると、神社をとりまく自然も含めて大切に保存されてきた。
その自然のしみじみとした深さと、雰囲気として取り巻いている太古からの多くの人の想いが、
自然に敬虔な気持ちを抱かせるのかもしれない。ここは、静かに神域の雰囲気を味わってもらいたい場所だ。
伊勢神宮を後にしたら、そのままR23を松阪方面に向かう。この道は、四日市、
名古屋方面へのメインルートということもあってかなり交通量が多いが、旅の締めに本場の松阪牛を味わうには、
沿道のレストランに入るのが目的なのだ。松阪牛といえば「和田金」というくらい、
老舗の和田金だが、ここは気軽に立ち寄れる店ではない。
リーズナブルを旨とするバイクツーリストには、沿道のファミリーレストラン風の松阪牛レストランがお勧め。
長旅の疲れをボリューム満点の松阪牛で回復したら、伊勢自動車道松阪ICから、一路、帰路に着くとしよう。