■ 花祭りの里へ
花祭りと言って、まず思い浮かぶのは、お釈迦様の像に甘茶をかけて
お釈迦様の誕生日を祝うほうの祭りかもしれない。でも、ここで言うのはまったく別の祭り。
愛知県の北東部、奥三河の地に伝わる不思議な雰囲気の祭りだ。
山深いこの地方には、南北朝時代に南朝側の貴族たちが逃れてきて住み着いたという伝説があって、
彼らが都を偲んで舞を舞ったのが初めとも、この地を最後の修行の場とした熊野や白山系の山伏や
修験者が創始した祭りともいわれている。夕方から朝まで、鬼の扮装をした舞子を中心に、みんなが踊り明かす。
また、この土地在住の還暦を迎えた人たちが死装束を纏い、
彼岸を象徴するお堂のようなところにこもってお祓いを受け、生まれ変わってこの世に戻る
再生の儀式のようなものも行われる。
祭りは11月から3月の間に東栄町内の各所で行われる。この祭りには誰でも参加できて、
のし袋に「お見舞い」と書いて2000円くらい包んで持参すると、地酒や食事が振舞われるという。
そんな身近な素朴さも魅力の一つだ。
今回は残念ながら、祭りの期間からは外れてしまっているが、
この不思議な祭りを育んだ奥三河の地を巡ってみるだけでも面白そうだと思い、でかけてみることにした。
■ 豊かな水としっとりとした山並み
東名の浜松西ICを降りて、R257を北上。すぐに市街地を外れて、
緩やかな起伏の山が連なる中を進む快適なクルージングとなる。『日本昔話』にでも出てきそうな丸っこい、
いかにも里山といった風情の山。細い流れと並行したり横切ったりしながら、次第に山深くなっていく。
途中、渓流魚の釣堀を併設した川魚料理の店『山王』(中部24C4)05363-4-0303で食事をする。
にじますの山王定食1600円、あゆ定食2300円、五平餅定食1200円といったメニュー。
ぼくは今が旬のあゆ定食を注文した。塩焼き、フライ、刺身とあゆづくしといった感じで、ボリューム満点。
庭園風の中庭からの涼しい風が吹き通る座敷で、思わずリラックス。
ちなみにあゆの塩焼きだけなら650円。釣堀で釣った魚を料理してくれるサービスもある。
この店の若旦那は、セローで全国を回るツーリングフリークとのことで、奥三河のツーリング情報を聞き込む。
今回、ぼくはDR―Z400Sという本格的なオフロードマシンを足にしていたので、自然、林道情報が中心になる。
このあたりは、林業が盛んなので、整備の行き届いた林道がたくさんあるという。
ただし、そのほとんどは、作業用林道で、途中で途切れていたり、短い道ばかりで、
本格的な「林道ツーリング」ができるような道はないとのこと。
また、恵那山林道などの長い道は、ほとんど整備されておらず、ここ二三年の台風などの被害で、
どれも途中で寸断されているらしい。せっかく、オフロードを走る気力満点で来ているのに、ちょっと残念な話だ。
R257を長篠まで辿り、そこからR151を東へ向かう。
3kmほど進んだ所で右に折れ、標識に従って阿寺の七滝へと向かう。この滝は、
日本の滝100選にも選ばれている由緒正しい?滝だ。阿寺川に沿った道は、
両側の岸壁から水が染み出していて、ここが、水の豊富なところであることを物語っている。
途中、豊橋や浜松からも水を汲みに来るという「ヘだまの水」で喉を潤す。
へだまは漢字で辺霊と書くが、それは延命を意味しているらしい。
阿寺の七滝は、駐車場から1km近く歩いた山中にある。森閑とした深い谷の突き当たりに、
その名の通り七段の滝が現れる。滝のしぶきが靄のように立ち込め、そこに一筋の日の光が差し込んで、
自然と敬虔な気分にさせられる。一説には、水しぶきのマイナスイオン効果で気持ちが落ち着くといわれるけれど、
滝を見て宗教的な気分になるのは、その効果なのかもしれない。
再びR151に戻り、宇連川に沿って、対岸にJR飯田線を見ながら北上する。
侵食の進んだ花崗岩の山並みは、昔何度か訪れた桂林の景色を彷彿とさせる。
水が豊かなのも桂林と同じだ。途中、鳳来寺山パークウェイを右に分けて少し進むと、
左側に美谷ノ原無料休憩所(24C1)がある。ここからは宇連川の河原に下りることができ、
鮎のシーズンには、簗でつかみ取りが楽しめる。時間の余裕があれば、
奥のキャンプ&バーベキュースペースでつかみ取りした鮎を焼いて、ビールを一杯とでもいきたいところ。
■ 恵那山林道にチャレンジするも...
花祭りの里は、鳳来町の隣、東栄町になる。こんもりとした日本昔話に出てきそうな山に囲まれた静かな里。
例年、11月3日の東栄ドームを皮切りに、3月まで11地区でそれぞれ独特の祭りが行われる。
「一度訪れて心を残した場所には、必ず再び訪れることができる」というから、今度の花祭りには、
参加することができるだろう。今回は、高台を通るR151から、町の全景を心に収めるだけで通り過ぎるだけにした。
いくつもの峠を越え、豊根村、阿南町と通り過ぎ、阿南町新野(40G5)でR418に入る。
標高1000m近い売木峠を越えて、売木村へ。ずっとワインディングが続いてきたので、ここで小休止する。
お勧めは『漬物の里 うるぎ』の五平餅。450円で、丼一杯以上のボリュームがある。
また、小腹を満たす程度なら、ほかほかのおやきがいい。この近くにある売木温泉も、立ち寄り温泉としてお勧めだ。
さて、売木を後にして、そのままR418を進むつもりだったが、先年の台風の被害で道が寸断されていて、
平成13年の3月までは岐阜県上矢作町の海で通行止めとなってしまう。仕方なく、
R153から県道101を通り、上矢作町清水に抜ける(40A4)。
今回はバリバリのオフロードバイクDR―Zを駆使して全長30kmあまりの恵那山林道を抜けてみようという趣向だ。
町営大船牧場の標識を目印に、山道を登っていく。10kmあまり、狭い舗装路を行くと、急にあたりが開け、
のんびりと草を食む牛がこちらを振り向く。この牧場を通り抜けたところからダートが始まる。
「よおし! ここからDR―Zの本領発揮ダ!」と突進したものの、
2kmも進んだところでどうにも思わしくない状況になってくる。このあたり、もろい砂質のダートなのだが、
雨に削られたいわゆるウォッシュアウトだらけで、まるでトライアルコースのような状態なのだ。
空荷ならまだしも、キャンプ道具満載では、オフロードランを楽しむどころか、
コケずに進むのがやっとといった有様。おまけに、天気まで怪しくなってきたので、
ただちに尻尾を巻いて退散してしまった。後で聞けば、恵那山林道は、幾度かの台風でズタズタに寸断されていて、
それこそトライアルマシンででもなければ走破できないだろうとのこと。どうやら中部地方の林道は、
どこもそんな調子らしい。
仕方なくまたR418に復帰して、恵那市街へ向かって下っていく。
恵那山の手前までは、無数の緩やかな山襞を縫って進んできたが、恵那山を回りこむと、風景がガラッと変わる。
それまでの繊細な風景とは打って変わって、大きな山を遠望する雄大な風景が展開してくるのだ。
空気も谷間に漂うしっとりした空気から、大きな山から吹き降ろす乾いた空気に変わる。
しみじみとした山里を繋ぐ旅を続けてきて、雄大な景色の中に飛び出してはじめて、
花祭りのような不思議な祭りが、奥三河の一角に長く受け継がれてきたのかがわかった気がした。