ツーリングマップル
 
こいつこそは21世紀の鉄馬かもしれない
text by 松本充治 page/ 1 2 3 4

BMW R1200C

 

ツーリングのより本来的な醍醐味を求めて

 ツーリングとは何か─という問いには、おそらくさまざまな答えがあるに違いない。そこに何を求めるかということで、乗り手の数だけ答えがあるといっても、ある意味、言い過ぎではないだろう。が、おおむね、バイクで行く旅、あるいはバイクと行く旅ということで異論はないだろう。むろん、いつ、どこへ、何を目的に行くか、ということはある。そして、そのとき、どんなバイクをチョイスするかということも、結果として旅そのものを左右するということはあるかもしれない。

もっとも、だからといって、ツーリングという行為そのものに、こうでなければならないという決まりはない。バイクにしても、最終的にどんなバイクに乗ろうとも、それは乗り手の自由であり、その決定権は乗り手にゆだねられている。ただ、今もいったようにツーリングがバイクで行く(あるいはバイクと行く)旅である以上、そのバイクが、どんなバイクであるかということが旅(ツーリング)自体の質─クオリティということだ─に、少なからず影響をおよぼし、仮にまったく同じ装備で同じ行程を走ったとしても、その旅の印象が、まるで異なったものになってしまうことがないとはいえないということは、はじめに認識しておいてもいいことだろう。バイクが結果として旅そのものを左右するということは、いわば、そういうことでもある。

 ところで、冒頭にもいったように、ツーリングに決まりがない以上、そこにはさまざまなスタイルがあるわけだが、ツーリングマップルが考えるツーリングとは、まずキャンプツーリングであるということ。そして、場合によってはタンデムも辞さず、しかもハイアベレージ&ロングディスタンス・ロングタームであるという、いわばツーリングの本場といってもいいヨーロッパ流ともいうべき、コンチネンタルスタイルのバイク旅を、その基本としてみたい。まあ、その理由を、いちいちあげていくときりがないから、ここでは割愛するが、ごくごく簡単かつ乱暴にいってしまうと、そうしたスタイルのバイク旅にこそ、ツーリングのより本来的な醍醐味があるといっていいと思うからに他ならない。

"バイエルンの巨人"によるこのバイクはどうだ

 BMWといえば、ひと昔ほど前までは、ナリキンのオヤジバイク(失礼)といったイメージがあったけれど、最近では、そうした既存のイメージにとらわれない、若い世代のオーナーが増えつつある。いわば、日本国内においては、今、もっとも旬のバイクメーカーだといってもいいのだ。

とはいえ、BMWのバイクメーカーとしての出発は今から75年も前の1923年にまでさかのぼる。以来、今日まで一貫して独自のバイクを作り続けてきた"バイエルンの巨人"といってもいい存在。そのバイクにおける独自性においても枚挙にいとまがないが、特に縦置きクランク+シャフトドライブという不変のパワートレインがもたらす独特の走りと、なかでも近年のマシンに顕著な、実際に使い込んではじめてわかるツーリングバイクとしての完成度の高さは、まったくといっていほど他の追従を許さない。

たとえば、パニアとリヤのスペースを生かせば、通常の2倍から3倍近い量の装備を持ち運ぶことができる圧倒的な積載性、あるいはトルク特性に優れ、しかも常用域で十二分に速いエンジン特性、あるいはまた荷物満載時、タンデム時、雨天時など走行条件がシビアになっても、およそそんなことに左右されない操縦安定性などなど、どれもこれもBMWの美点として言い古されてきたことではあるけれど、現実に旅に出て、行った先で発揮されるそのポテンシャルは、まさにこれ以上のものはないと思い知らされるに充分すぎるものだったりする。

クルーザーはどうだ

 前置きがやや長くなってしまったけれど、そんなBMWのラインナップにおける異色の存在がこのクルーザーだ。外見から判断する限り、BMWによるアメリカンなどという認識が一般的で、事実、今回試乗するまでは、ぼくもその程度のバイクだろうとしか思っていなかった。つまり、本格的なツーリング志向のマシンが主流を占めるBMWのラインナップのなかにあっては、チョットソコラヲナガスくらいのバイクで、よくて日帰りツーリングに使えるほどのものでしかないなどと、勝手に思い込んでいたのだ。

でも、それはまったくもって見当違いもいいところで、今回ぼくは四国の実走取材で、クルーザーとざっと3000kmを走ってきたけれど、結論からいってしまうと、旅バイクとしてはもちろん、一台のバイクとしてみても、こんなに面白いバイクは、ちょっと他にはないんじゃないかと自信を持っていえる。

なるほど、少し考えてみれば、BMWが、そんなチョイ乗りバイクを作るはずなど、あるはずもない。その点では、いわゆるBMWらしさは、このクルーザーでも健在。確かにBMWの独壇場といってもいい高速道路のハイアベレージランでは、他のモデル─たとえばRSやGSといったBMWのスタンダードマシンを想定してみよう─と比べると、ややローペースを余儀なくされるが、それ以外のシチュエーションで、クルーザーが遅れを取ることはまずもってないと断言できる。そればかりか、むしろ狭くてで先の読めないカーブが、これでもかと続くタイトなこと極まりない四国のマウンテンルートのような場面では、1200ccのフラットツインが生み出す余裕のトルクを生かして、それらのモデルを大きく引き離すことさえ可能だし、積載性、汎用性、融通性など、どれも充分、実際の旅に耐えうるものとなっている。

だが、それだけでは、BMWによるただのアメリカン風のよくできたツーリングバイクでしかないが、実は、こいつが何より面白いのは、そのときのクルーザーならではの走りの世界ともいうべきもので、シートというよりは、サドルといったほうがぴったりくる単座のシートに身を沈め、大アップハンドルの太いグリップを握り、コーナーを攻め込んでいくと、やがて左右のステップが接地し、さらに攻めていくと、今度は左右のマフラーまでもが接地するが、驚くべきことにテレレバー&パラレバーの前後サスと、長いホイールベースによってもたらされるスタビリティによって、そんな激しい走りにおいても、不安定な要素は皆無。

さらに、ガチガチに固められて、一般的には固いと不評のリヤサスは、路面のギャップでポンポンとリヤを撥ねあげ、それはまるで、暴れ馬のように、もっと速く、もっと激しくと、乗り手を挑発してくるようでもいるのだから、たまらない。

総じていえば、見た目のエレガンスさとは裏腹に、このクルーザーは、剛脚で超ワイルド。そう思って見ると、エンジンフィーリングもコンピュータ制御のロムチューンで、よくもここまで演出したなあ、と感心してしまうほどの、どこか動物的な鼓動感を醸しているし、そうなると、やはり、この確かに固いリヤサスも、まるでリジッドサスのような、クルーザーならではのダイレクト感たっぷりの乗り味を語るうえでは、むしろなくてはならないもののようにさえ思えてくるし、一見都会的なアイボリーの色合いも、かつてのタフなこと極まりないロンメルのクラッドを想起させるから不思議なのだ。

ハードな旅に駆り出してこそ似合う、男のバイク

もともと無機質で、機能性には優れるが、その反面、乗ることの面白さという点では、イロケガナイといわれるBMWのバイクだが、その点、このクルーザーは出色の出来。かといって、本家ハーレーダビッドソンや、あるいはしょせんハーレーの呪縛から逃れえないジャパニーズアメリカンの延長にあるわけでもない。あくまでもクルーザーという独自の世界を、BMWらしさをきちんと隠し持たせながらも、既存のBMWとは、まったく異なるカタチで成立させている点が光るとともに、リヤに荷物を積んだ姿が、こんなにもさまになるバイクも、そうないんじゃないか、と思う。

その意味じゃ、ヒカリモノで飾り立てて、ハーレーや既存のアメリカンよろしく、街中を流すのもいいけれど、ぼくなら断然リヤスペースに荷物を満載にして、ハードなロングツーリングに出る。

走り出したとたん、こいつは風や、あるいは雨を受けて走ることがこんなにも痛快なことだったのかという、現代の高度に洗練されたバイクがいつしか忘れてしまったオープンエアという、ある意味バイクの原点である感覚を思い出させてくれる。

四国をあとにした旅の最後の日、ハイウェイはバケツをひっくりかえしたような土砂降りに見舞われた。過剰なパワーを滑りやすい路面でもてあまし、多くのクルマやバイクが、完全に戦意を喪失しているなか、クルーザーは片手運転のまま140 km/hで流していても、なお余裕だった。乗り手の意のままに、完璧に使い切れるパワーとは、まさにこのことだ。

かつてバイクは鉄の馬と呼ばれたりしたけれど、もしかしたら、こいつこそは21世紀の鉄の馬なのかもしれない。シールド越しにたたきつける雨を全身で感じながら、そんな思いが胸のうちをかすめた。

 

 
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