ツーリングマップル
2002/03/07 心安らぐ景色に会いに行く
内田一成
「美しい日本のむら景観コンテスト」で、三重県名張市の布生地区が農水大臣賞を受賞した。いわゆる景勝の地というのではなく、昔ながらの素朴なたたずまいを残す里山の景色がコンテストの対象となるのは、逆にそんな風景がどんどん失われていることを物語っていて、寂しさを覚えたりもする。実際、ツーリングマップルの取材などで、全国各地を旅していると、そんな風景がとても少なくなってしまったのを実感する。

里山の麓に点在する民家から、朝餉や夕餉の頃になると細く煙が立ち昇って、それが低くたなびいて、なんとも長閑な風情を見せる。そんな風景が田舎へ行くとあちこちで見られたのは、いつの頃までだろう?

時の流れとともに、人の生活や風景が変化してしまうのは当たり前のことだけれど、どこもかしこもマスプロダクトな「モノ」ばかりになって、景色に変化がなくなっていくのは寂しいものだ。

幹線道路を走り、大きな駐車場を備えた観光地ばかり巡るドライブでは、ふと車を止めて見渡したときに心の和む風景に出くわすことはほとんど期待できない。だけど、それがオートバイでのツーリングだと、案外身近な場所で、何十年も前にタイムスリップしたかのような風景に出くわすことがある。

とくにこれといった目的もなく、地図も持たず、ただ気の向くままにどこかへ出かける。そんなツーリングもたまにはいい。何も考えず、ただ心のおもむくままに、道から道へ。ときには、オートバイから離れて、道なき道を自分の足で歩いてみる。そんな旅で出会った風景が、案外、もっとも強く印象に残るものだ。

今、某国営放送の朝のドラマのおかげで、熊野の山に訪れる人が急増しているという。世界遺産に指定された飛騨の山間の白川郷には、休日の原宿竹下通りか夏の軽井沢のメインストリートかと思えるほどの人が押し寄せる。素朴な山里の風景が、魅力だったはずなのに、もう「素朴さ」なんて欠片もない。「美しい日本のむら景観コンテスト」といったイベントが、逆に山里の雰囲気を台無しにしてしまうことにならなければいいのだがと思う。

ちなみに、ぼくが気に入っている「素朴な里山の風景」は何ヶ所かあるが、それをここで紹介するつもりはない。そういう風景というのは、ガイドブックを見たり、人に聞いたりして訪ねてみるようなものではなく、気まぐれな旅の中で偶然出くわすからこそ、喜びが得られるといった性質のものだと思うから...。
SUPER MAPPLE DIGITAL
旅先での記録もこれで完璧!
モバイル機能がさらに進化・充実!
詳細はこちら[→]
 
Copyright(c)2001 Shobunsha Publications, Inc. TOURING WAVE. All rights reserved.