ツーリングマップル
2002/03/28 旅人
内田一成

ブルース・チャトウィン『パタゴニア』。地の果てへ、恐竜の皮を探しに行きたくなる。ザックの中に『奥の細道』を一冊突っ込んで...
幼いとき、祖母が大切にしている恐竜の皮を手にとって、それが見つかったというパタゴニアに憧れていた男。彼は、あるとき、安定した仕事を放り出して、幼い頃の夢であったパタゴニアへと旅立つ。そのときは、祖母が持っていたのは恐竜の皮ではなく大ナマケモノの皮だとは知っていたが、彼にとってパタゴニアは、恐竜が化石にならず、シベリアの凍土に埋まっていたマンモスのように、みずみずしいまま埋まっている土地に変わりなかった。

ザックの中に、英訳版の芭蕉の「奥の細道」を忍ばせて、芭蕉と同じように、ひたすら自分の足で歩きながら、世界中のあらゆるところから、はじき出されるようにしてパタゴニアに辿り着いた人たちと出会い、まるで恐竜時代から続いているようなその淡々とした日常と、パタゴニアに秘められた歴史を紐解いていく。

ブルース・チャトウィンの「パタゴニア」は、不思議な雰囲気を持った本だ。だけど、「ここではない、どこか」への憧憬を素直に抱ける人、ほんとうの旅人なら、たちまち、その世界に囚われてしまうだろう。

ブルース・チャトウィンは、辺境を愛し、辺境を渡り歩いて、最後には中国の片田舎で客死してしまうが、淡々と異郷の地を漂泊していく「パタゴニア」を読むと、彼の魂は、あいかわらず、「奥の細道」をザックに忍ばせて、ときどきそれを開きながら、どこかの辺境を歩きつづけているような気がする。

そして、もう一冊、今、ぼくの座右にあって「旅」を感じさせてくれる本がある。その表紙には、大きな砂丘の頂上に立って、地平線の彼方まで続く目のくらむような砂丘の連なりを眺める一人の男がいる。途方もない広がりを持つ風景の中で、彼の姿は、人間のちっぽけさを象徴しているのだけれど、同時に、その背中からは、「この広い世界の隅々まで、自分の目で見て、全身で味わってやるぞ」といったたくましい意思が感じられる。広い世界を相手に、怯むことなく佇むその姿に、なんとなくブルース・チャトウィンの姿がオーバーラップして見える。

この本には、「文集『西野始』」というシンプルなタイトルがつけられている。以前、このコラムでぼくも触れたし、賀曽利さんも話題にされたことのある西野始さんの追悼文集だ。その中には、賀曽利さんの一文も掲載されている。

この本は、ごく最近、亡くなられた西野始さんの奥さん、篤子さんからいただいたものだ。1997年12月19日、航空機事故で亡くなった西野始さん。その月命日に、篤子さんが、故人を偲んで、インターネットで彼に因んだ記事やサイトを検索していて、ぼくが以前このコラムに書いた話にたまたま行き当たり、直接メールを送ってくださった。その後、何度かメールのやりとりをするうちに、その本を送っていただいたというわけだ。

存在感というか、影の濃さというか、一度逢ったら忘れられない人物がいる。西野始という人はそういう人だった。「文集『西野始』」の中には、そんな彼と世界のどこかで出会い、いっぺんで彼のファンになった人たちが、ブルース・チャトウィンのように、今も世界のどこかで愛車に跨っている彼に宛てたメッセージがたくさん載っている。

旅を愛した彼らの足跡を辿っているうちに、なんだか、ぼくも旅に出たくなってきた。


文集『西野始』。世界を無邪気な遊び場としてエンジョイした痛快な男へのファンレター これが、賀曽利さんも絶賛の『オフロードライダー』。賀曽利隆、風間深志、西野始、地球と一対一で向き合う真の自由人、それがオフロードライダーだ
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