ツーリングマップル
2002/10/24 峠の茶屋
内田一成

佐夜の中山に一軒だけ残っていた峠の茶屋「扇屋」だが....
今年最後のツーリングマップルの取材から戻ってきた。今年は延べ30日、1万kmにも渡って中部北陸エリアを走り回った。

今年いちばんのトピックといえば、来年から一般車両が通行禁止となる乗鞍スカイラインに二輪四輪が連日押し寄せて、盛大に排気ガスを撒き散らしたことだろう。例年ならちらほらとしかライダーの姿を見かけない秋のこのエリアで、土日ともなると、乗鞍を目指すライダーの列が続いていた。それにしても、環境保護の観点からの通行禁止化のはずが、まとめて10年分の環境破壊を招いたようなもので、皮肉もいいところ。

来年からは、許可を受けた営業車両のみが通行できるわけだが、それで通行量が大幅に減るわけではない。本来、環境保護をうたうのなら、電気自動車や自転車、歩行者に限定するべきだと思う。自転車で走れる道になったら、3000mの稜線目指してがんばってペダを漕ごうと思うのだが....。

それはともかく、今回の最後の取材では、一ヶ所、ぜひとも訪ねてみたい場所があった。それは、旧東海道の日坂宿と金谷宿の間に位置する佐夜の中山峠。箱根、鈴鹿と並んで東海道三難所のひとつとうたわれたところ。ここには広重の浮世絵にもなった夜泣き石と往時からずっと続く「峠の茶屋」があった。

峠の茶屋「扇屋」には、100歳を過ぎて現役の看板娘(?)がいて、一服する旅人に東海道の昔話を語ってくれた。その看板娘にあって、「夜泣き石」や「子育て飴」といった、この峠に伝わる話を直接聞いてみたいと、前から思っていた。

トンネルを貫いてあっという間に通り過ぎてしまう国道1号から離れて旧東海道の県道に入ると、茶畑に囲まれた、ビッグバイクでも喘ぐほどの急坂に差し掛かる。まさに胸突き八丁の傾斜で、歩いて越えるにはそうとう難儀しただろうと思わせる。その頂上、久延寺に並んで「扇屋」があった。

ところが、看板は出ているものの、店は閉じられ、ただベンチがその前に並べられていた。立てられた板戸には貼り紙があって、名物「子育て飴」は隣のお宅で扱っているという。そこで「子育て飴」を買いがてら話を伺うと、ずっと「扇屋」を切り盛りされて、旅人に峠の昔話を語っていた川島ちとせさんは大往生をとげられて、その後、店は閉じられてしまったとのこと。江戸時代には久延寺の門前に20軒あまり並んでいた茶屋が「扇屋」一軒だけになり、それがついに閉じられてしまった。

前から楽しみにしていた訪問だっただけに、全身の力が抜けたような気がしてしまった。時間は待ってくれない....そんなことを実感した旅の一場面だった。
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