ツーリングマップル
2002/12/26 "God Scapes ―熊野・神々の大地―"
内田一成

"God Scapes ―熊野・神々の大地―"。全国のキャノンサロンを巡回する写真展。2003年のキャノンオフィシャルカレンダーでもある。お勧め!
山岳写真家というと、人を頑なに拒もうとする厳寒の高山に登って、荒れ狂う風雪に耐え、一瞬だけ垣間見せる息を呑むような自然の息吹をフィルムに収めるといった、ハードボイルドなイメージがある。

石橋睦美という写真家は、もちろん、そんな山岳写真の定番のような写真も撮るのだが、それよりも、彼にとっての「山」は、ただ一点だけのピークに囚われず、その裾野から里へと至る広い範囲で捕らえられている。

とくにこの10数年は、身近にある樹林、森、里山を被写体にして、それを観た者が遺伝子に秘められた記憶を揺さぶられるような作品を発表し続けている。

昔、アウトドアの雑誌で取材に同行させていただいたとき、淡々と山を歩きながら、石橋さんがふと足を止めてカメラを向ける先には、とても繊細で、普通の人なら間違いなく見過ごしてしまいそうな風景があって、驚かされた。それは、例えば、真っ白い絹の上に何十万倍にも薄めた墨を一滴垂らしたような、そんな微妙な「何か」なのだけれど、意識して観れば、はっきりと違いが感じられて、そこに途方もない自然の奥行きが感じられるようなものだ。

奥多摩の浅間尾根を辿っているとき、森にうっすらとガスがかかっていた。ぼくには、いつも見慣れたただの霧にしか思えないのだが、石橋さんは、しっかりと三脚を据えると、熱心にシャッターを切り始めた。

「内田さん、ガスに色がついているのがわかりますか?」彼は、シャッターを押しながら尋ねる。

じっと目を凝らしてガスを見ると、なんとなく緑がかっては見えるけれど、緑の森にかかるガスなのだから、その色を反射しているとしか思えない。

「今、見えているガスは、緑色なんですよ。ほんとに微妙なんですけど、フィトンチッドは緑色をしていて、たくさん放出されると、その色がはっきりわかるんですよ」

そう言われて見渡して見ると、そこに漂う霧は木々の緑を反射しているのではなく、霧自体が微かな緑色をしているように見えた。そんな経験をした後で、一人で山歩きやツーリングしていて、霧の中に入ると、霧の粒子の色の違いがはっきりとわかるようになった。そして、自然が、それまでよりずっと奥行きのあるものに見えるようになった。

視点をほんの少し変えるだけで、物事は違った位相を見せる。そんなことを石橋さんから実地に教わったわけだ。

先月、あるきっかけで知り合った人が、熊野に縁のある人で、ぼくも大学時代の親友が熊野の人だったり、修験者の端くれとしては熊野は聖地の一つであり、このところ、何かと熊野を意識することが多かった。

そこへ、石橋さんから写真展の案内が来て、それが熊野をモチーフにしていると知って、驚いてしまった。しかもそれが、熊野の自然の中に神性を見出したというタイトルで、それは、ぼくがレイラインハンティングを通して、感じていたことそのままだったのだから....。

石橋睦美写真展「God Scapes ― 熊野・神々の大地 ―」は、1月6日の銀座キャノンサロンを皮切りに、全国のキャノンサロンで開催される。絶対お勧めの写真展、ぜひ、お運びを! ちなみに、来年のキャノンの公式カレンダーも石橋睦美「God Scapes」。こちらももちろんお勧め。


*写真展の日程などの問い合わせは、各地のキャノンサロンへ直接お願いします
*カレンダーについては、下記を参照してください
 http://cweb.canon.jp/gallery/calendar2003/index.html
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