そもそも一枚岩ではないリビア
リビア北東部キレナイカは古代ギリシャの街キュレネがあった地で、北西部トリポリタニアのトリポリ市はフェニキア人が建てた3つの街「トライポリス」の一つとして栄えました。7世紀にイスラムが来ると以降アラブ部族が群雄割拠。16世紀以降のオスマン支配を経て、20世紀前半にイタリアが両地域を統合し併合しました。
リビアでカダフィ政権の独裁が始まった経緯
イタリアが敗北した第二次大戦後の1951年、義勇兵として戦ったサヌーシ(19世紀半ばから東部を中心に力を持ったイスラム神秘主義教団)が、教団トップを王とする国を建てます。それからすぐに油田も発見。しかし第三次中東戦争での弱腰な姿勢に、若手将校らが反発しました。革命が起き1969年からカダフィ独裁が始まったのです。
カダフィは、アラブの統一を掲げ、少量のカリスマ性と豊かな石油収入に支えられて、パレスチナを始め世界各地の革命勢力を支援しました。テロにも関与が疑われました。米国はリビアを爆撃し、欧州と共に経済制裁をかけました。20世紀末が近づくと一族を優遇する腐敗と経済の伸び悩みが目立ち、テロ容認への国際的な圧力が強まりました。これを受けてかカダフィは軟化し、協調に舵を切り始めたかに見えました。
アラブの春から内戦状態へ
2011年にアラブの春が飛び火して、リビアは内戦状態に陥りました。そのなかでカダフィが殺害されたのです。それから十年以上が過ぎたものの、リビアでは混乱が続いています。新生リビアでは各勢力が東西に陣取り、首相が2人いて、国民の心配をよそにまとまれずにいるのです。
リビアを知るキーワード
リビアのキーワード:キュレネ遺跡
紀元前に栄えたギリシャ人都市。媚薬や避妊に効く特産の薬草シルフィウムで潤いました。栽培不可で採り尽くしたので、衰退したとの説あり。世界遺産です。
リビアのキーワード:熱風ギブリ
リビアで年に数回吹く強烈な南風。サハラの砂埃が舞い、街は赤に染まります。他国ではシロッコ、カムシンと呼ばれ、日本ではアニメ会社の名前になっています。
リビアのキーワード:シャララ油田
南西部にあるリビアの主要油田。それだけにストライキや操業妨害がたびたび発生します。リビアはアフリカでトップクラスの産油国です。
リビアのキーワード:第2都市ベンガジ
リビアの北東部キレナイカ地方の中心。アラブの春以降、反政府軍が拠点とし、リビアの国が東西に割れました。米国領事館襲撃事件が起きた街としても有名です。
リビアのキーワード:エレナ砦
リビア南西部フェザン地方の要衝。イタリア支配時代に造られ、リビア独立後は病院などに使われました。アラブの春の戦いで砲弾が撃ち込まれてしまいました。
リビアのキーワード:大人工河川
1980年代から建設が始まりました。内陸部の地下にある有限の地下水(化石水)を、沿岸都市までパイプラインで運ぶカダフィ大佐肝煎りの大計画です。
リビアのキーワード:バーバリーライオン
北アフリカに生息し絶滅したと思われていましたが、モロッコ王のペットが発見され完全絶滅を回避。長いたてがみがメスやハンターに好まれました。
リビアのキーワード:ウバリ砂漠
塩湖のオアシスが点在するリビア南西部の観光地。ベルベル系のトゥアレグ族が暮らしています。彼らは、インディゴで染めた布で過酷な砂漠環境に対応しています。
リビアのキーワード:昔の方が良かった
アラブの春でカダフィ体制は倒れたものの、内戦に陥いったリビア。自由はありませんが、我慢すれば生活はできたカダフィ時代を懐かしむ声があるとか。
リビアのキーワード:伝統パン料理バジーン
リビア西部でポピュラーな先住民であるベルベル人の料理。丸く形成したパンをジャガイモや茹で卵を入れたスープに浸します。食べ応えがある料理です。
リビアの著名人
リビアの著名人:独裁者 ムアンマル・カダフィ
欧米から独裁者や狂犬と揶揄されましたが、カリスマ性と石油の富の再分配で、貧しいながらも暮らしが成り立つリビアを作りました。(1942〜2011)
リビアの著名人:哲学者 カルネアデス
古代ギリシャのキュレネ人。1人しかつかまれない船板があった時、自身を守るために他人を見捨てて良いかとの問題を提起しました。(紀元前3〜2世紀頃)
リビアの著名人:アル・サーディ・アル・ カダフィ選手
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また、ヨーロッパ版では1カ国につき2ページの展開でしたが、今回の中東版では主要な国と地域についてはページを増やして、より詳しく紹介しています。
掲載している国・地域
イラン/イラク/トルコ/シリア/レバノン/イスラエル/パレスチナ(ヨルダン川西岸、ガザ地区)/サウジアラビア/クウェート/バーレーン/カタール/アラブ首長国連邦/オマーン/イエメン/エジプト/スーダン/リビア/チュニジア/アルジェリア/モロッコ/アフガニスタン/カザフスタン/ウズベキスタン/キルギスタン/タジキスタン/トルクメニスタン/アゼルバイジャン/ジョージア/アルメニア
【監修者】高橋和夫 (たかはし・かずお)
福岡県北九州市生まれ、大阪外国語大学外国語学部ペルシア語科卒、コロンビア大学国際関係論修士、クウェート大学客員研究員、放送大学教員などを経て2018年4月より一般社団法人先端技術安全保障研究所会長。主な著書に『アラブとイスラエル』(講談社1992年)、『イスラム国の野望』(幻冬舎、2015年)、『世界の中の日本』(放送大学教育振興会、2015年)、『中東から世界が崩れる』(NHK出版、2016年)、『現代の国際政治』(放送大学教育振興会、2018年)、『国際理解のために(改訂版)』(放送大学教育振興会、2019年)、『中東の政治』(放送大学教育振興会、2020年3月)、『最終決戦トランプVS民主主義―アメリカ大統領選挙撤退後も鍵を握るサンダース』(ワニブックス、2020年7月)など。
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