自らの信念に従って行動するとき、人は誰でもヒーローになりうる

1980年、韓国で軍事政権の弾圧に対し、市民が大規模なデモを起こし多数の死者まで出てしまった光州事件。この映画はその光州事件で英雄というべき働きをした、一人のタクシー運転手の物語です。

主人公は稼ぎも大してないために、娘に靴を買ってあげることもできない冴えないお父さん。もちろん民主化運動に興味もなく、むしろ自分の商売の邪魔だと思っているくらい。ところがある日、10万ウォンという金額につられてドイツ人のジャーナリストを光州に乗せていくことになり、この事件に関わりを持っていきます。そこで主人公が見たものは？そして主人公がとった行動は？

政治的な運動に興味を持たない一市民が主人公となっていることで、民主主義の重要性とともに誰の心にもある「善」について考えさせられる、大事な映画です。

公権力の代わりに悪を成敗するハードボイルドなヒーロー像

読書が好きな平凡で物静かな労働者かと思いきや、行きつけのダイナーで知り合った女の子が暴力を振るわれていたことを知ると、彼女をひどい目に合わせた売春組織のロシアンマフィアの元を訪れ、瞬く間に敵を倒していく。どう見ても只者ではないこの男、実は元CIAのエージェントでした。

イコライザーとは「等しくする者」という意味。自分は死んだことにして別人として静かに生きていたけれど、悪を見逃すことができない。冒頭に示されるマーク・トウェインの「人生で最も最も大事な日は二日ある。生まれた日と、生きる意味を見つけた日だ」という言葉は、このためだったのか、と気づいた時、この映画の深みが胸に突き刺さる、そんな魅力をたたえた一本です。

「グラン・トリノ」をきっかけに始まる、孤独な老人とその隣人の物語

主人公のウォルトは妻に先立たれ、一人静かに暮らす孤独な老人。彼が持っているものは戦争に参加した時の苦い経験と愛する妻との思い出、そして大切なヴィンテージカー、グラン・トリノ。ただ静かに死を待つだけと思われた彼の生活は、隣人のモン族の少年が愛車を盗もうとすることをきっかけに、大きく変わり始めます。

不器用だけれど矍鑠（かくしゃく）とした老人が隣人を守るために不良グループに向かい合う姿は、間違いなくヒーローそのもの。ポケットから出した手に握られていたライターは、自らが所属していた第一奇兵隊のジッポ。ウォルトは、最後にヒーローとなることで、自らの人生の幕を下ろしたのではないでしょうか。

ほろ苦く、ボディブローのようにじわりと効いてくる、そんなヒーロー映画も素敵じゃないですか。

トラヴィスは本当にヒーローなのか。映画を通して暴力と正義について考えてみる

戦争とPTSDについて描かれ、その刺激的な内容から現在でも語り継がれ、様々な映画にも影響を与え続けている作品です。

舞台は70年代のニューヨーク。ベトナム戦争の帰還兵であるトラヴィスは不眠症に悩まされ、孤独で、どこか狂気を感じさせる男。眠れないことを理由にタクシードライバーとして働くトラヴィスは、売春宿のポン引きたちを粛清することでヒーロー扱いされるのですが、本当に彼をヒーローとしていいのかどうか、観る者の心に一抹の不安と疑問を残します。

勧善懲悪の単純なヒーロー映画も魅力的ですが、こうした問題作が提示するメッセージを読み解くことで、真のヒーローとは何なのかを考える、そんな時間も案外大切なのではないでしょうか。

法で裁くことができない巨悪。独裁者に立ち向かう仮面のダークヒーロー

この映画の舞台は近未来、第三次世界大戦後のロンドンです。しかしその世界はまるでジョージ・オーウェルの小説『1984』のよう。全体主義に縛られ、人々は不自由な生活を強いられています。宗教の自由もなく、夜間外出もままならず、警察に怯える日々。

そこに現れるのがガイ・フォークスのマスクをつけた男、V。周到な計画のもと、人々を弾圧し続ける独裁政権に立ち向かうV。この映画の公開以降、ガイ・フォークスのマスクは抗議運動の際に使われるようになり、ハッカー集団アノニマスの象徴ともなりました。

もう一人の美しい主人公、イヴィーとのロマンティックな場面もありつつ、ラストにはカタルシスも感じることができる秀作です。

食べ物につられてカンフーマスターに！おデブなパンダが世界を救う！

主人公ポーはいつか自分が龍の戦士となることを夢見るパンダ。ある時開かれた「龍の戦士」を決める演武会で、偶然からなんとポーが選ばれてしまいます。自堕落なポーですが、食べ物に対する執着は人一倍。あんまんにつられて修行をマスターし、ついに平和を脅かすタイ・ランと対決！

豪華な声優陣もさることながら、大きなお腹がチャームポイントのパンダが、仲間との友情を築きながら成長していく姿が共感を呼び、なんと世界中で大ヒット。頭を空っぽにしてデトックスしたい時にうってつけのこの映画はシリーズ化され、現在『カンフー・パンダ3』までラインナップ。そして2024年3月の公開に向けて『カンフー・パンダ4』の製作も進んでいるそうです！

伝説の埼玉県人、埼玉デュークとその息子が埼玉差別に立ち向かう

結納のために東京へ向かう菅原一家。その車中に流れるラジオで語られる「埼玉の都市伝説」は、それはそれはひどいもの。埼玉県人は、その昔は通行手形を持たなければ東京に入ることができず、学校では迫害され、校内はランク分けされたヒエラルキーの下に差別がはびこっていて――。そこに、港区出身・アメリカ帰りの都会ランク最上級と思しき麻実麗が転校してくることから様々な事件が起こり、最後は千葉対埼玉の全面戦争に！

……という非常にナンセンスな内容ながら、爆笑に次ぐ爆笑の抱腹絶倒映画がこの『翔んで埼玉』です。劇中に登場する伝説のヒーロー埼玉デュークの正体とは！

魔夜峰央の未完の原作を元に作られたこの作品、出演者も埼玉・千葉出身者が多数。自虐ネタも多いけれど、笑える話題が多くてうらやましいぞ、埼玉！

パブ巡りに挑む酔っ払いたちがヒーローに！思わずビールを飲みたくなる一本

エドガー・ライト監督にサイモン・ペッグ、ニック・フロスト。このトリオの体制で製作された「スリー・フレーバーコルネット三部作」の三作目です。彼らの映画はどれも奇想天外でスピーディな展開が小気味よく、楽しめること間違いなし！

この映画では、5人の幼なじみが12軒のパブをハシゴするという「ゴールデンマイル」に挑戦。しかしなぜか街の様子がおかしい。実は「ザ・ネットワーク」という宇宙人に支配され始めていたのです。アルコール中毒でダメ人間のゲイリーとその仲間たちは、支配に抵抗し、世界を救うべく戦いますが……。

仲間たちの思い出話や人間関係を取り巻くヒューマンドラマかと思いきや、突然SF映画になってしまうというハチャメチャぶりが楽しく、どんどん引き込まれてしまう魅力を持った映画です。

マーベルきっての破天荒型ヒーローがスクリーンを越えて話しかけてくる！

スーパーヒーローと呼ぶにはあまりにも下品なセリフが大爆発！だけど身体能力は抜群で、武装集団もバタバタと倒していきます。でも実はこの映画、ラブストーリーなのです。

恋人と幸せの絶頂にいるときに末期ガンを宣告され、不死身の体に生まれ変わりますが、そのときに顔が焼けただれてしまいます。死なない体になったものの、この顔を恋人が受け入れてくれるのか……。

言葉は汚いし、適当だけど憎めない主人公の恋をいつしか応援してしまう、実はマーベルのヒーローの中でも、幸せなヤツなのかもしれません。加えてこの映画の魅力は、なぜか「第四の壁※」を破って、自分を作り出したアーティストをディスったり、映画を観ている私たちに向かって話しかけてくるところ。そんなぶっ飛んだ愛すべきヒーローの世界に、浸ってみませんか！

※舞台と客席を分ける透明な壁のこと

ハッタリも本当になれば立派なヒーロー！おとぼけカメレオンの行く先は。

人間に飼われながら「自分は何者か」と自問自答して、役者気取りで暮らしていたカメレオン。ある日トラックの荷台から落ち、道路の真ん中に放り出されてしまいます。

たどり着いたのは土の街。そこでたまたま見かけた酒瓶のラベルから、自分のことを「ランゴ」と名乗り、凄腕のガンマンだと大ボラを吹きます。すると本当に保安官に任命されてしまうのです！水不足で悩むこの街で、ホラ吹きランゴは本物のヒーローになれるのでしょうか。

2011年の作品とは思えないクオリティのアニメーションと、西部劇のような展開！ランゴの繰り出す嘘や登場するキャラクターの雰囲気がマッチして、大爆笑とはいきませんがなんだかクスっと笑ってしまう、そんなゆるっとしたコメディ映画です。