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まっぷるマガジン編集部

更新日:2020年4月13日

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シンガポール建築、多民族国家を象徴する建築

各文化を反映した宗教建築から、近代的な超高層ビルまで多種多様。多彩な個性を訪ね歩くのは、シンガポールの街歩きの大きな楽しみ。

仏教・道教建築

仏教・道教を信仰するのはシンガポール国民の7割を占める中国系の人々。華麗な装飾の仏教・道教寺院は伝統的な中国様式を今に伝えている。

絢爛たる装飾の中国様式

中国様式は、重要記念建築物に指定されているシンガポール最古の中国寺院シアン・ホッケン寺院に見られるように、龍をいただく屋根の上から寺院内の柱まで、華麗な彫刻で装飾されているのが特徴。初期移民の出身地、中国華南の様式を伝えるもので、伝統的な中国家屋や宮殿の様式を踏まえ、中庭を中心として左右対称に建築群が配されている。建物の配置や角度、色なども風水に則って建てられており、華人系の信者が捧げる長い線香の煙に包まれる堂内は、赤と金色に彩られていて華やか。2007年に創建されたブッダ・トゥース・レリック寺院も、目を見張るほどの壮大華麗な仏教建築に、深い陰陽宇宙観を現出させている。

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シアン・ホッケン寺院
中国福建省からの移住者が船旅の無事を海の女神「天后聖母」に感謝して1841年に創建。屋根の龍や柱の彫刻など、ハイテクで改修された装飾は必見

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ブッダ・トゥース・レリック寺院
地上4階、地下3階の黄金に輝く寺院&博物館。仏陀の歯が安置されている

昔ながらのマレー建築を探す カンポン・ハウスはどこにある?

国民の大半が高層公営住宅HDBに住む今日、高床式のマレーの伝統的木造建築「カンポン・ハウス」は衰退の一途。離島やマレー半島ではまだ見られるが、国内では郊外のバンガローにその名残を見る程度だ。

カンポン・モハメド・アミン
マレーシアのジョホール・バルにあるマレーの伝統文化を紹介する施設。昔ながらのマレーの集落が再現されている。

ヒンドゥ建築

緻密に彫刻された極彩色の神々の塑像がずらりと並ぶ。塔門、天井、壁と空間を余すことなく埋め尽くす装飾が街中で異彩を放つ。

濃密なインド神話の世界

ヒンドゥ寺院建築の特徴は、ゴープラムと呼ばれる、寺院の正面入口となる塔門である。セイロン島と南インドの寺院建築を融合させたスタイルを踏襲しており、中国人上陸以前にはインド系移民たちが住んでいたチャイナタウンに残るスリ・マリアマン寺院やリトル・インディアに建つスリ・スリニヴァサ・ぺルマル寺院などのゴープラムは、インド神話に題材を取った極彩色の神々や動物たちがピラミッド状に重なり合って圧倒的な存在感を見せている。堂内では靴を脱ぎ、足洗い場で足を清めて拝観するのが作法。スリ・マリアマン寺院は疫病を治癒する女神を祀るが、二大主神であるシヴァやヴィシュヌをはじめ、インドの叙事詩『マハーバーラタ』『ラーマーヤナ』に登場するハマヌーンやガネーシャなど多種多彩な神々に出会える。花葉文様が浮き彫りされた壁や天井画も色彩にあふれ、インド神話独特の世界観に包まれている。

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スリ・マリアマン寺院
1827年にインド商人によって建立されたシンガポール最古のヒンドゥ寺院。高さ15mの極彩色のゴープラムが目印

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スリ・スリニヴァサ・ペルマル寺院
1855年に建立された。18mのゴープラムは、主神であるヴィシュヌと10の化身たちの彫像が見どころ

ムスリム建築

イスラム教の偶像崇拝を排した内装と外観を持つモスクは、威風堂々とした建築美を誇る。メッカを向く広大な礼拝堂は厳粛な空間だ。

玉ネギ形ドームの礼拝堂空間

イスラム寺院は、回廊に囲まれた広い中庭と1日5回礼拝が行なわれる礼拝堂を持つのが特徴。黄金の玉ネギ形ドームの屋根が印象的なスルタン・モスクは、1824年にラッフルズ卿がジョホール・スルタン、フセイン・シャーのために建てたのが最初で、100年後の植民地時代にアイルランド人建築家によって改装された。インドのタージ・マハールやエルサレムのドームなどの建築物とゴシック建築様式を融合させた意匠で、壁や窓枠はイスラム風の抽象文様の装飾が施されている。建物の横には体を清める洗い場があり、一切の偶像を置かず、男女の礼拝場所は分けられ、アザーンやコーランの声が響く礼拝堂は5000人が礼拝できる。モスクは靴を脱いで入るスタイルで、肌の露出の多い服装はタブーとなっている。

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スルタン・モスク
イスラム教のシンボルである三日月と星をいただく黄金のドームに光塔が目をひく

コロニアル建築

イギリスの植民地時代に建てられたコロニアル建築は、建国から近代国家へと成長する国の歩みを見守り続ける歴史的建造物だ。

英国ヴィクトリア朝の建築群

行政の中心地であり、シンガポールの歴史を今に伝える数々の建築物などがあるシティ。パダン広場に沿って並ぶ白亜の建築群は、どれも植民地時代に建造された歴史的遺産。最も古いのが1830年近くにアイルランド人建築家コールマンが、西洋建築の原点であるギリシャやローマの建築に範をとったパラディアン様式のアルメニアン教会と旧国会議事堂である。ネオ・ゴシック様式の聖アンドリュース大聖堂やチャイムス、シティ・ホールやヴィクトリア・シアター&コンサートホールなど、ヴィクトリア朝建築様式にヨーロッパ諸国のさまざまな建築モチーフがちりばめられている。ラッフルズ・ホテルは、白亜のファサードや回廊に囲まれたトロピカルガーデンなど、西洋の建物と東洋の自然を融合させて、独特なコロニアル建築のデザインを生み出した。

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聖アンドリュース大聖堂
白い尖塔が美しいネオ・ゴシック建築の英国国教会の大聖堂。聖堂にはラッフルズ卿に奉献されたステンドグラスがきらめく

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ラッフルズ
伝統的なコロニアルスタイルの白亜の建物で、シンガポールのランドマークホテル。歴史と伝統が感じられる客室は全室スイート。宿泊以外にショッピングや食事も楽しめる

コロニアル・バンガロー

コロニアル式を代表する住宅様式として、白い壁に黒塗りの梁や窓枠が際立つ、ブラック&ホワイトハウスと呼ばれる家がある。1898年から1941年の間に建てられた白と黒のコントラストが美しい建築様式で、イギリス様式に高床式のマレースタイルが混ざり合う。高い天井に広いテラスや風通しの良いバルコニーは熱帯モンスーンの気候に適した構造だ。緑いっぱいの庭園の中に建つブラック&ホワイトハウスは、バンガローとも呼ばれ、今もアダムRd.、タングリンRd.、デンプシー・ヒル、ロチェスター・パークなどに残っている。

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チューダー・コート
タングリンRd.にはチューダー様式の建物が並び、アジアのアンティークショップが軒を連ねる

風水学に基づいた近代都市

シンガポールを守る風水の力シンガポールではさまざまなことが、風水学に基づいて決定されるという。高層ビルが建ち並ぶマリーナ地区の南部は、良い気の流れが集まる龍穴とされる場所。コインの八角形も風水でお守りとされる形だ。

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ファウンテン・オブ・ウェルス(富の噴水)
サンテック・シティは手の形に5棟のビルが建ち、手のひらにあたる部分に風水で「富」を意味する噴水がある。右手で水を触りながら噴水を3周すると願いが叶うという。

ショップハウス (Shophouses)

1階を店舗に、2階を住居として使っていた伝統的な長屋式住宅の一種。パステル調のプラナカン様式の建物は、まるで童話の家のようだ。

カラフルなプラナカン建築

15世紀後半からシンガポールに移住してきた中国人とマレー人の子孫のことを「プラナカン」という。中国の伝統を重んじながらも、マレーやヨーロッパの建築様式を融合させたプラナカン建築は、ショップハウスと呼ばれる。壁は明るいピンクやブルーのパステルカラーで彩られていることが多く、間口が狭くて奥行がある造りが特徴。表玄関側にはファイブ・フット・ウェイと呼ばれる屋根付歩行者用の通路が続く。よろい窓やスイングドアは、ネオ・ゴシック様式、バロック様式などの西洋風やマレー風の瀟洒なレリーフで彩られ、花柄タイルもよく使われる。エメラルド・ヒルやジュー・チアットRd.、クーン・センRd.、チャイナタウン周辺のニールRd.やブレアRd.などの通りには、シンガポールの昔の姿を彷彿とさせるショップハウスが連なっている。再生されたショップハウスはボート・キーやクラーク・キーなどで見ることができる。

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クーン・センRd.
窓を飾る花模様のレリーフとパステルカラーが印象的なプラナカン建築群が集中するクーン・センRd.

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観光情報を観光地ごとに紹介する雑誌スタイルの旅行ガイドブック「まっぷるマガジン」。その取材スタッフや編集者が足で集めた「遊ぶ」「食べる」「買う」「見る」「泊る」のおすすめ情報をご紹介しています。

奥付:
この記事の出展元は「トラベルデイズ シンガポール」です。掲載している情報は、2015年4月〜8月にかけての取材・調査によるものです。掲載している情報、商品、料理、宿泊料金などに関しては、取材および調査時のもので、実際に旅行される際には変更されている場合があります。最新の情報は、現地の観光案内所などでご確認ください。

※掲載の情報は取材時点のものです。お出かけの際は事前に最新の情報をご確認ください。