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まっぷるマガジン編集部

更新日:2020年4月13日

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オーストラリアの建築 時代とともに移り変わる建築様式

18世紀後半、イギリスの流刑地として植民地化したオーストラリア。囚人から一般人へ、入植者の変化とともに建築も変わっていった。

初期コロニアル建築 Early Colonial Architecture

植民地支配の拠点となったシドニーには、当時建設されたコロニアル建築が多数残っている。イギリスの様式を合理的にした建築様式が特徴だ。

グリーンウェイの建築

イギリスの建築家グリーンウェイは、1813年に流刑囚としてオーストラリアにやってきた。最初は個人的に建築活動をしていたが、1816年に政府直属の建築家として登用された。

ニュー・サウス・ウェールズの第6代総督ラクラン・マッコリーは、公共建築で植民地の都市を繁栄させることをめざし、グリーンウェイとともに公共事業の推進に努めた。高い技術力と労働力を効率よく使い、植民地最初の大規模病院「ミント」や囚人の礼拝堂「セント・ジェームズ教会」など数多くの建築物をシドニー市街に残した。

19世紀前半に、総督とグリーンウェイの独占体制が問題となり解雇となったあとは、中流階級の邸宅などを手がけて生活するようになる。

グリーンウェイの建築は新古典主義をベースに、合理的で均整のとれたプロポーションが特徴的だ。しばしばシンプルなアーチ型の開口部が設けられている。費用の削減と合理化などが最優先される植民地の状況にふさわしい建築を、高い技術と知識で生み出し、さらに労働力となる素人の囚人でも理解可能な、単純な整数比を採用した構造になっている。

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ハイド・パーク・バラックス博物館 Hyde Park Barracks Museum
1819年築の、シドニー中心部にある囚人の収容施設。無駄な装飾を排しながらも、均整のとれた建築要素は当時グリーンウェイの最高傑作と評された。

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セント・ジェームズ教会 St. James Church
1819年。シドニー中心部にある、青銅色の尖塔が印象的な囚人専用の教会。グリーンウェイ建築の特徴である半円アーチ窓が並び、ステンドグラスが施されている。

ジョン・バージの建築

1830年代の好景気時代は「建築の黄金時代」といわれ、多数の建築作品や上・中流階級者の邸宅が誕生している。この時期に活躍したのが、療養のためオーストラリアに来ていた建築家のジョン・バージだ。クライアントの要望に応え、シドニーの植民地書記官の邸宅「エリザベス・ベイ・ハウス」など、イギリスの伝統的建築モチーフを用いた高水準の建築物を残した。

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114 - Elizabeth Bay House, by Pablo Rodríguez Madroño, CC BY-SA

エリザベス・ベイ・ハウス Elizabeth Bay House
1835年築のジョン・バージの代表作。イギリスの伝統的建築をベースにした、シンプルな左右対称の白亜の邸宅で、内部には豪華な家具が配されている。

ヴィクトリア様式╱ゴシック様式 Victoria, Gothic Architecture

ゴールド・ラッシュに沸いたメルボルンには一般人が次々入植した。豪華な建築が好まれ、街にはヨーロッパの建築様式の壮麗な建物が次々と建てられた。

ヴィクトリア建築

1851年に近郊で金鉱が発見され、短期間のうちに大都市となったメルボルン。人口は爆発的に増加し、建築も盛んになっていた。

好況に沸く都市では、人々の欲望を満たすような、豪華な建築物が必要とされていた。人々のニーズを理解し、ヴィクトリア建築の基礎を築いたのは、1852年に入植したジョセフ・リードだ。卓越したデザイン力とプレゼンテーション力で「メルボルン公共図書館」「ジーロング・タウンホール」などのコンペを勝ち取り、街のシンボルとなる建築物を生み出していった。メルボルン近郊にある、国宝級のレンガ造りの邸宅「リッポン・リー」も手がけている。

1879年には豪華絢爛な「万国博覧会展示館」が着工。ジョセフ・リードの功績は大きく、メルボルンはオーストラリアにおける建築の最先端都市へと発展していった。

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王立展示館 Royal Exhibition Building
1880年。ジョセフ・リードが手がけたメルボルン万国博覧会の会場で、装飾が施された丸天井や大広間が美しい建築。2004年には世界文化遺産に登録された。

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ヴィクトリア州議事堂(旧国会議事堂) Parliament of Victoria
1929年。1856年に着工の、ギリシャ神殿を思わせる壮大なファサードが印象的なメルボルンのシンボル的建造物。現在も州の議事堂として使用されている。

ゴシック・リバイバル建築

中世ヨーロッパの建築様式を再現した、新古典主義のゴシック・リバイバル様式の教会も各地に建築された。空に伸びる高い尖塔が特徴の、美しく威厳ある教会建築が今も各地に姿を残す。

イギリスの建築家ウィリアム・バターフィールドと、ジョセフ・リードが手がけたメルボルンのセント・ポール大聖堂はその代表格だ。メルボルンにはそのほかにも数多くのゴシック教会があり、セント・パトリックス大聖堂、セント・ジョン・アングリカン教会はセント・ポール教会とともにメルボルン3大ゴシック建築と呼ばれている。

シドニーのハイド・パーク脇にあるセント・メアリーズ大聖堂は、オーストラリアにおけるカトリックの総本山。歴史的建造物の多いエリアでも、とくにおごそかな姿を見せている。

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セント・メアリーズ大聖堂 St. Mary’s Cathedral
1928年、約60年の歳月をかけてシドニーに築かれた大聖堂。正面の尖塔は近年設置された。内部には見事なステンドグラスもある。

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by fotolia - © f11photo

セント・ポール大聖堂 St. Paul’s Cathedral
1891年建造の、メルボルンの街のシンボルになっている英国国教会の大聖堂。ジョセフ・リードの監督のもとで完成した。

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セント・パトリックス大聖堂 St. Patrick’s Cathedral
1939年。1858年から約80年という歳月をかけて建築された荘厳な建築物。オーストラリア最大のカトリック教会で、高さ105.8mの尖塔を有する。

住居建築 Residential Construction

入植者の増加とともに住居建築は大きく変化した。雨風をしのぐ程度のものから、気候に適したバンガローや美しい装飾を持つ集合住宅へと発展してゆく。

コロニアル住居

入植当時の一般庶民の住宅は、木組みの外壁に、木の皮の屋根を葺いた簡素な造りのものだった。強い日差しやスコールから家を守るための大きなひさしが取り付けられるようになり、ベランダが特徴のコロニアル住宅へと発展する。

オーストラリアにおけるコロニアル住居の特徴は、平屋で、住居の側面に奥行1.5〜3mのベランダを持ち、ゆるい傾斜の屋根が住居全体にかかっていること。各戸が一世帯向けであることは、個人主義を重んじるイギリス人の性質を反映している。他国のコロニアル住居と大きく違うのは、ベランダの多様性にある。通常リビングなどに面するだけだが、住居を大きく囲むように設けられ、廊下のようにも使われていた。

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カドマンズ・コテージ Cadman’s Cottage
1816年に船員の住宅として建てられた、シドニー最古の住居。2階建ての砂岩造りの質素な建物で、フランシス・グリーンウェイが設計を手がけた。

Elizabeth Farm, 2005

エリザベス・ファーム・ハウス Elizabeth Farm House
1794年、シドニー郊外に開拓者ジョン・マッカーサーの邸宅として建築。オーストラリアに現存する最古の住宅で、奥行の深いベランダが建物を囲む。

テラス・ハウス

都市人口が急増し、住宅供給不足の対処のために、本国イギリスで増えていたテラス・ハウス(連続式長屋)が建てられるようになった。1820年頃から出現するが、本国のような5〜6層のものではなく、2〜3層の低層のものが建てられた。

テラス・ハウスの特徴は、シンプルな建物のベランダに取り付けられた装飾的なアイアンワークだ。繊細なレース細工を思わせるパターンは、質素な生活を強いられていた入植者の庶民たちの心を魅了した。
1870年代にテラス・ハウスは全盛期を迎えた。メルボルンのサウス・ヤラ地区やカールトン地区には、当時建築された華麗なベランダを持つ建物が数多く残されている。

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リッポン・リー・エステイト Rippon Lea Estate
メルボルン近郊にある豪商の大邸宅。ジョセフ・リードが設計を手がけ、1868年に完成したレンガ造りの豪華な家。何度も増改築が行なわれている。

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タスマ・テラス Tasma Terrace
1880年代に建造。3層の建物に端正なアイアンワークが施された住宅で、優雅なアーチが印象的。現在はナショナル・トラストの事務所が入っている。

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奥付:
この記事の出展元は「トラベルデイズ オーストラリア」です。掲載している情報は、2015年7〜9月の取材・調査によるものです。掲載している情報、商品、料理、宿泊料金などに関しては、取材および調査時のもので、実際に旅行される際には変更されている場合があります。 最新の情報は、現地の観光案内所などでご確認ください。

※掲載の情報は取材時点のものです。お出かけの際は事前に最新の情報をご確認ください。