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生き残りのカギはデザインにあった!? 紙の地図の今までとこれから

少年B

更新日: 2022年5月26日

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生き残りのカギはデザインにあった!? 紙の地図の今までとこれから

紙の地図はかつて、家庭にひとつはあるものでした。しかし、近年はWEB地図の台頭により、今では「地図を読んだことがない」という人もいます。

かつて、多くの会社が地図の出版にしのぎを削った時代がありました。そのなかで、2022年現在も全国の道路地図・都市地図を作り続けているのは、昭文社ただ1社のみ。空想地図作家の今和泉隆行さんは「昭文社が生き残った理由のひとつは、地図のデザインにあったのではないか」と分析します。

今回はそんな今和泉さんが、昭文社の地図のデザインのこれまでと、これからについてお聞きします。お相手は、昭文社で30年以上地図作りに関わってきた飯塚新真さんと、現・地図編集担当課長の市川智教さんです!






飯塚 新真(いいづか にいま)
1962年生まれ。1986年(株)昭文社入社。地図編集部長、デジタルコンテンツ本部長、基盤情報制作本部長を経て、現在、(株)昭文社ホールディングス取締役。中学生の時、母親に自宅付近の2.5万分の1地形図『吉祥寺』(国土地理院)を買ってもらったのが本格的な地図との出会い。






市川 智教(いちかわ とものり)
1978年生まれ。2001年(株)昭文社入社。入社後3年半ほど九州沖縄地区の営業担当。その後大阪・東京にて一貫して地図編集畑を歩む。地図と密接な関りがある鉄道・飛行機・船・車など、陸海空の動いているものに乗っている時に一番の幸せを感じる。






聞き手:今和泉 隆行(いまいずみ たかゆき)
1985年生まれ。7歳の頃から実在しない都市の地図=空想地図を描き続けている「空想地図作家」。地図デザイン、テレビドラマの地理監修・地図制作にも携わる他、地図を通じた人の営みを読み解き、新たな都市の見方、伝え方作りを実践している。(Twitter:@chi_ri_jin

あまりにも大変だった、アナログ時代の修正作業

今和泉:
1980年代後半、昭文社の地図は、大きくデザインを進化させましたよね。地図制作のデジタル化によるところも大きいのかなと思うんですが、今回はそのデザインの進化と、これからについてをうかがいたいと思います。よろしくお願いします。

飯塚市川
こちらこそよろしくお願いします。

今和泉:
スーパーマップルが誕生したのは、デジタル化の直前だとおっしゃいましたよね。これは大変だったんじゃないかと思うのですが。

スーパーマップル誕生秘話 今なお人気の「道路地図の決定版」はどうして生まれたのか

飯塚:
そうですね。もう疲労困憊でした。

今和泉:
町域別の色分けに道路の色分け、建物も用途別に色分けをしているわけですもんね。現在であればデータ上で簡単に表現ができるわけですが、当時はそれをフィルム(印刷用の版)でやっていたという。

▲創刊間もない頃の「スーパーマップル関東(1993年)」(クリックで拡大)

飯塚:
今も当時も一般のカラー印刷は4色刷が基本になっていますが、当時の地図印刷は極めて特殊で、5色、6色以上の多色が使われていました。等高線や道路などの細い線や面の色分けをシャープな仕上がりで表現するには、どうしても特別な色を用意する必要があったんです。

つまり、そもそも地図印刷は通常の印刷物より色数分だけ印刷フィルムの枚数が多かったんですよ。

今和泉:
版画の多色刷りのように、1枚の紙にひとつずつ色を重ねていくわけですね。

飯塚:
そうです。加えて地図印刷では、刷り色1色について2枚以上のフィルムを用意する必要がありました。街は変化をしていますから、地図もそれに合わせて改訂を重ねていかなくてはならない。最初の地図を作るのはもちろん、修正はそれ以上に大変でした。

修正するとなると、フィルムを丸ごと直す必要があるわけですが、たとえばこの真ん中辺りにある「中野上町」という交差点の名称を変更、少し位置を変えるとしましょう。

▲交差点名も青だが、川も青。しかし、おなじフィルムにはできないため、フィルムの枚数は色数の数倍必要になる

飯塚:
この交差点名は青色で書いてありますが、このひとつを修正するためには、青のフィルム上で古い交差点名を(物理的に)削ってから、新しい名称を印字したフィルムを貼る必要があります。でも、同じく青で描いている川はそのまま残さなくてはならない。これは大変なことです。

今和泉:
信号だけじゃなく、道路や建物ができたり、工事によって地形が変わったり、街の名前が変わることもありますもんね。いやいや、想像を絶する作業です。

飯塚:
さすがにそんなことは難しいので、フィルムを分けておくんですが、今度はおなじ青でも、水辺の青と交差点名の青、2種類以上のフィルムを用意しなくてはならない。

なので、この地図は5色刷りなんですが、フィルムの枚数でいえば、その数倍あるんです。「赤」色についてはバス路線やバス停名に1枚、背景色のために1枚…というふうに。

今和泉:
なんと……!

飯塚:
だから、初版を出すときから将来の修正のことも考えて、フィルムの設計をしていく必要があったんです。

今和泉:
今だとIllustratorやPhotoshopのレイヤーで行う作業をアナログでやっていたわけですね。

飯塚:
そういうことです。こうした制約のために、デザイン性のために余分な色を使ったり、経年変化が頻繁な地物(ちぶつ=ここでは店舗や施設、建物などのこと)を表示することに対して、どうしても地図編集者は抑制的になってしまいます。

今ならデジタルデータの設定ひとつで対応できてしまいますからね。デジタル化は本当に大きな進歩でした。

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※掲載の情報は取材時点のものです。お出かけの際は事前に最新の情報をご確認ください。

筆者
少年B

1985年生まれのフリーライター。地図自体に造詣が深いわけではないが、地図を見ながら「こことここの間に道路ができたら便利だなぁ」などと妄想を膨らませるのが趣味のひとつ。(Twitter:@raira21

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