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駅のホームに宿がある!? 小説『駅に泊まろう!』をたどる北海道旅 

SAGOJO

更新日:2021年11月10日

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駅のホームに宿がある!? 小説『駅に泊まろう!』をたどる北海道旅 

緊急事態宣言でステイホーム期間が長くなりましたが、そんな時こそ、日ごろできない読書をゆっくりしてみてはいかがでしょうか。読書の醍醐味は、ストーリーの中で色々な世界に連れて行ってくれること。

今回ご紹介する『駅に泊まろう!』は、「旅する小説」と帯に書かれていると おり、読み終わったらすぐに旅支度をしたくなるエピソードが盛り込まれています。 今回は『駅に泊まろう!』の物語に登場する宿、「駅の宿ひらふ」の魅力をご紹介します。

『駅に泊まろう!』の舞台は北海道・比羅夫駅

『駅に泊まろう!』の舞台は北海道・比羅夫駅
森の中にたたずむ古びた駅舎

『駅に泊まろう!』の舞台は北海道・ニセコエリア。主人公は、東京の居酒屋チェーンで店長を務めていた桜岡美月です。都会暮らしやセクハラ・パワハラ、サービス残業に疲れ果てていた美月が、亡き祖父から北海道ニセコ地区のコテージを譲り受けることになった、という設定です。

美月は会社に退職届を叩きつけ、新しい生活を求めて列車を乗り継ぎ、北海道に向かいます。降り立ったのはJR函館本線・比羅夫(ひらふ)駅。降りてみると「田舎」のイメージを通り越し、人っ子一人いない大自然に囲まれた駅でした。

「降りる駅を間違えた……」と焦る美月に、「到着を待っていた」と一人の男性が声を掛けます。オシャレなコテージを想像していた美月でしたが、古びた駅舎そのものが、「駅の宿ひらふ」というコテージだったのです。

画像:楽天ブックス

『駅に泊まろう!』は、実在する「泊まれる駅」が舞台

『駅に泊まろう!』は、実在する「泊まれる駅」が舞台
事務室が宿にリフォームされている

『駅に泊まろう!』の舞台となる比羅夫駅は、1904年10月15日に開業し、全国でも珍しい宿泊可能な現役の駅です。比羅夫という地名は、飛鳥時代に蝦夷征伐(えみしせいばつ)を行った、阿倍比羅夫(あべの・ひらふ)の名に由来しています。

この駅には一日あたり、上下14本が発着。かつては駅員を配していましたが、1982年3月1日に無人駅となりました。1987年頃、一般の方がJR北海道から駅舎を借り受けて、「駅の宿ひらふ」 を開業したのです。

山小屋のような佇まいの比羅夫駅

『駅前には、レンタルビデオ、ファミレス、コンビニはおろか、どんなローカルな街にもあるはずのオンボロスナックさえなく、民家の灯りも見えなかった』(駅に泊まろう! 44ページ)

これは、主人公・美月が比羅夫駅に降り立った時の感想です。

ニセコエリアは、外国人観光客の増加とともに建設ラッシュが続き、目まぐるしく開発が行われています。しかし、比羅夫駅はリゾートへの最寄り駅ながら、接続するバスはおろか、客待ちのタクシーも見当たりません。あるのは古びた駅舎とまばらな民家のみ。 森から聞こえる野生動物たちのうごめきに、大自然に降り立った実感がこみ上げることでしょう。

■駅の宿ひらふ
住所:北海道虻田郡倶知安町字比羅夫594-4
電話:080-5582-5241
交通:小樽駅から函館本線(長万部行)で比羅夫駅へ
営業期間:通年(休業日は以下の通り)
営業時間:チェックイン 15:00~22:00/チェックアウト ~10:00
休業日:夏期のみ、毎週火・水曜日/冬期は無休(2021年休業日 2021/1/6-2/19)
料金:大人、高校・中学・小学生 4000円~
カード:PayPay
公式HP:http://hirafu-eki.com/

「駅の宿ひらふ」は、思わず「ただいま」と言ってしまう雰囲気

「駅の宿ひらふ」は、思わず「ただいま」と言ってしまう雰囲気
オーナーの南谷吉俊さん

『駅に泊まろう!』の中では、祖父の時代から働いていた従業員の東山亮(ひがしやま・りょう)と美月が、二人で宿を切り盛りする設定になっていますが、実際には、京都出身の南谷吉俊(みなみたに・よしとし)さんがオーナーを務めています。

旅行が好きで、世界中を旅していた南谷さん。1995年8月、羊蹄山(ようていざん) 登山のために比羅夫駅を訪れました。その時に前オーナーと出会い、話が進んでいくうちに「ここで働かないか」と言われ、考え抜いた末に移住を決意したそうです。

木のぬくもりが優しく迎えるロビー

比羅夫駅は事務室がリフォームされ、宿として使用されています。『駅に泊まろう!』の中で美月は『部屋の内装やインテリアはウッディなとても落ち着つきのあるもので、私は初めてここへやってきたのに“帰ってきた”と感じてしまうような優しい雰囲気だった』と表現しています が、その描写のとおり、旅人を温かく包み込むオーナーの心遣いが宿全体に感じられます。(『駅に泊まろう!』58ページ)

鉄道ファンにはたまらない空間

木のぬくもりを感じるロビーには、薪ストーブが鎮座。寒さが厳しい冬も快適に過ごせます。無料・セルフサービスのお茶とコーヒーなどの心遣いもうれしいですね。壁には列車の行先板や愛称標などが飾られ、鉄道に関する書籍もたくさん用意されており、連泊して読破したくなります。

客室は最低限にして最高な設備

客室は最低限にして最高な設備
山小屋風ベッドルームのヴェール

駅舎2階が客室に改装されており、相部屋・二段ベッド・セルフサービス・23時消灯など、ゲストハウス方式が採用され、3つのタイプから選べます。

一つ目の「ヴェール」は、定員4名の山小屋風ベッドルーム。二つ目の「ステラ」は定員3名の洋室で、北東側に窓が面し、天気がよい夜には北極星と北斗七星が望めます。
三つめはログコテージの「すーる」で、定員5名のトイレ付。おもに貸し切り用として使われています。

生きている喜びを感じる露天風呂

宿には近代的な内湯のほか、直径1mのプルース(北米松)の丸太を掘り抜いた露天風呂があります。寝そべることができるほど大きな浴槽なので、ゆったりと湯に浸って旅の疲れをとりましょう。

『駅に泊まろう!』には「黒岩」という陰のあるお客さんが登場するのですが、『黒岩さんも、このお風呂に入ったんなら、少し落ち着いたんじゃないだろうか』(101ページ) と美月に言わせるほどくつろげるお風呂です。湯船につかって流れる雲や星空を見ていると、些細な悩みなど何でもないように思えてきますよ。

野趣あふれる「プラットホームで食べるバーベキュー」

野趣あふれる「プラットホームで食べるバーベキュー」
比羅夫駅のホームがバーベキューの香ばしさに包まれる

駅に泊まれるだけでも十分珍しい体験ですが、それだけで終わらないのが「駅の宿ひらふ」の人気の理由。4月末~10月月初の間は、駅のホームに夕食が提供されるのです。その名も「プラットホームで食べるバーベキュー(1,600円 ・税込)」。

ラム肉(160g)・ウィンナー2本・えび・イカ・ほたて・たまねぎ・ピーマン・じゃがいも・なす、その他季節によって旬の食材がプラスされ、ボリュームも満点です。

抜群な素材の良さを堪能

バーベキューと一緒に提供される焼きおにぎりは、南谷オーナーこだわりの一品。ご飯を固めに炊き、バットなどの平たい器にあけて、絶妙な塩加減で味付けています。握るのではなく「結ぶ」のがポイントで、網に載せて焼いても崩れないように注意を払っているそうです。

虫の音をBGMに味わうディナー

夜になると月明かりと星の瞬き、そして炭火の炎があたりを照らします。丸太の椅子に座り、豪快にバーベキューにかぶりつくディナータイムはまさに至福のひととき。素晴らしい環境が素材の良さをさらに引き立ててくれます。

比羅夫ではゆっくりと時間が流れる

比羅夫ではゆっくりと時間が流れる
非日常さえ日常に感じる

夜8時頃、 低いエンジン音をとどろかせて、乗客を乗せた列車がホームにはいってきました。電車のヘッドライトが照らす先には、ホームでバーベキューに舌鼓を打つ宿泊客の姿が。奇妙な光景にも関わらず、乗客のほとんどが関心を示しません。

それもそのはず。ほとんどの乗客が通勤や通学などの「常連」のため、ホームでのバーベキュー光景も、日常の光景になっているのです。私たちにとって「非日常」の光景も、ここでは当たり前に受け入れられているようですね。

まだ23時だというのに、窓の外は静まり返っている

23時消灯のため、早めに就寝準備にかかります。都会であれば仕事終わりの帰宅時間、というところでしょうか。「まだ仕事をしている」という人もいるかもしれません。

しかし比羅夫で23時ともなれば、静寂が広がり、エゾシカなど野生動物のうごめきが聞こえてきます。布団に入ると夕食に飲んだビールが眠りを誘い、いつの間にか夢の中に導かれます。

比羅夫駅の朝は6時31分

比羅夫駅の朝は6時31分
一日上下14本の列車が発着する

朝一番、大きな物音で目を覚ましました。時計を見ると早朝6時31分を指しています。『駅に泊まろう!』でも、目覚ましをセットしようとする美月に対し、亮が『きっと初めてここに泊まる人間は、朝は6時31分に目が覚めると思うぞ』というシーンがあります。(98ページ)

亮の言うとおり、本日の一番列車が到着したようです。
2014年度の統計によると、1日の乗降客はたった4人。その一人が足早に列車に乗り込んでいきました。

いつまでも家(ホーム)であり続ける

いつまでも家(ホーム)であり続ける
今後の比羅夫駅の動向が気になる

函館本線の長万部~小樽が 、北海道新幹線の札幌延長区間になっているため、2031年の新幹線開通 と共に比羅夫駅が廃止される可能性が高くなっています。ニセコ地区の開発が進められても比羅夫地区は変わらなかったように、鉄道が廃止されても「駅の宿ひらふ」は変わらずにいてほしいものです。

『いつでもお待ちしています!ここは家(ホーム)ですから』と言う美月のセリフどおり、宿がある限り、優しく旅人を迎えてくれることでしょう。

物語の続編を作りませんか?

物語の続編を作りませんか?
物語の続きは、この駅から始まる

インターネットでは「心温まるエピソードが多く、続編を書いてほしい」というレビュー投稿がありましたが、この本を読んだ人が「駅の宿ひらふ」に宿泊すれば、その人だけの続編が始まります。
ホームで食べるバーベキュー、丸太の露天風呂、一番列車到着の目覚めなど、小説の世界に入り込み、新しいストーリーを作り出してください。

画像:楽天ブックス

筆者
SAGOJO

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