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東京の街に残る廃線跡~古地図と辿るおすすめ路線「東京都港湾局専用線(1989年廃線)」

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東京の街に残る廃線跡~古地図と辿るおすすめ路線「東京都港湾局専用線(1989年廃線)」

かつて日本の物流・旅客輸送の要であった鉄道は、政策の変更や社会の変化によりその役割の大部分を自動車に譲り、戦後75年の間に全国で700本以上の路線が廃線となって消えていきました。

その昔に鉄道が走っていた痕跡を訪ね、往時を偲ぶ「廃線跡探訪」は、かつては一部のコアな鉄道・地図愛好家だけの限られた世界でしたが、インターネットでの情報発信や資料発掘が容易になったことを背景に、また趣味活動の多様化も後押しとなって趣味研究界の中でも一般化してきました。
近年では産業遺産的な価値が再認識され、自治体などによる保存活動や観光資源化が行われ「市民権」を獲得しているところも多くなっています。

「廃線」という言葉からは、地方の山の中や田畑を走っていたローカル線の草むした線路跡をイメージされる方も多いと思いますが、東京や横浜、大阪などの都市にも廃線となった路線がありました。変貌の激しい都市開発の僅かな隙間に痕跡が残されている場所がまだまだ存在します。

経済・社会の発展を担うため、貨物や旅客輸送を目的に建設されながら、時代の変化とともに役目を終えていった都会の鉄道の痕跡を、現役だった頃の地図を片手に訪ねてみましょう。ここでは東京都心から至近にある、気軽に安全に訪ねることができるおすすめ廃線跡を紹介します。

東京港の物流を担った「東京都港湾局専用線」

東京港の開港~晴海地区は都庁(東京市庁)の予定地から倉庫・展示会場へ

東京湾は浅瀬が多く大型船の航行ができず、港湾としては早くから横浜・川崎が整備されていたこともあって東京港の歴史は比較的新しく、ちょうど太平洋戦争が始まった1941年(昭和16年)に開港しています。航路を浚渫し竹芝、日の出地区に大型貨物船が接岸できる埠頭を設けました。

ちょっと以前なら晴海の展示会場、近年はオリンピックの選手村としても話題になった晴海地区。ここは昭和初期の埋め立てで造られた土地で1937年(昭和12年)までは「新月島」と呼ばれていました。戦前には新しい東京「市」庁舎の建設計画や日本万国博覧会の会場候補地となる華やかな予定もありましたが戦時体制への突入などですべてたち消えとなり、軍の資材置き場などに利用された後は米軍の接収地となっていました。

1953年(昭和28年)あたりからぼちぼち返還されることになりようやく開発が本格化、港湾施設や住宅団地が建設されていきます。

豊洲地区の工業地化と東京都港湾局専用線の開通

豊洲地区の工業地化と東京都港湾局専用線の開通
火力発電所の煙がなびく昭和40年頃の豊洲・晴海付近。国土地理院空中写真より

晴海のお隣の豊洲には戦後、造船所や火力発電所、ガス製造に用いる石炭の貯蔵施設がつくられるなど工業地化が進んだことで東京港からの物流を円滑にする必要が高まり、この地区の物資運搬用として東京都の手により貨物専用の「東京都港湾局専用線」が敷設されます。既に開業していた国鉄貨物線の越中島から西へ延伸するかたちで1953年(昭和28年)に豊洲地区、1958年(昭和33年)には晴海までの路線が開通しました。自治体が直接運営・運行する貨物専用鉄道は全国でもあまり例がなかったといわれています。

ちょっと古い地図で見る江東区の湾岸エリア

ちょっと古い地図で見る江東区の湾岸エリア
昭文社刊 区分地図「江東区」(1969年発行)より

昭和40年代の江東区の区分地図を見てみましょう。豊洲地区には何本も枝分かれした線路が埠頭地区に広がっている様子がわかります。一帯には工場や倉庫が立地し、線路はそのひとつひとつを結び、建物の中に入り込んでいる部分もあるようです。晴海運河沿いの豊洲二丁目には石川島播磨の造船所、その先には石炭埠頭や鉄鋼埠頭が広がり、石炭を利用する東京ガスの工場や火力発電所なども見えます。

上の地図の晴海・豊洲付近を拡大してみました。地図上をクリックすると少し大きくなります。

線路は晴海運河を渡って晴海まで伸びています。日本製粉のサイロや1959年(昭和34年)に開業した国際貿易センターもありますね。線路と岸壁の間には倉庫が並んでいました。貨物は新聞用紙や輸入小麦の取り扱いが多かったようです。

その後石炭利用からの転換や船舶輸送形態の変化、トラック輸送への移行などに伴い鉄道貨物の輸送量は大きく減少、更に現在このエリアは高層ビルやショッピング施設、タワーマンションが建ち並ぶ「新しい街」に大きく変貌し、当時の面影はほとんどありません。これだけあった貨物線も工場や倉庫がなくなるに従い役目を終え、昭和の終わりから平成にかけて廃止となっていきました。しかし廃線から30年以上経った今日でも晴海運河に架かる東京都港湾局専用線の廃線跡の鉄橋「晴海橋梁」がモニュメントのように残り、往時を偲ぶことができます。

晴海運河に今も残る廃線跡「晴海橋梁」

晴海運河に今も残る廃線跡「晴海橋梁」

「晴海橋梁」は東京都港湾局専用線の晴海線に設けられた晴海運河を渡る鉄道橋です。1957年(昭和32年)に開通、1989年(平成元年)まで使われていました。32年間は鉄道路線としては比較的短い生涯の方に入りますが、ちょうど高度経済成長の時代からバブルの時代までになりますので、近代の東京の街を陰で支えてきた橋でもあります。

橋は全長190m、中央部が径間58.8m、アーチ橋の一種で曲面の鋼材を用いたローゼ桁と呼ばれる鉄道橋としては希少な構造で、更にその両側には連続プレストレスコンクリート橋を使用した、鉄道橋としては初めての組み合わせでもあるそうで、橋梁技術・歴史的にも価値が高いと言われています。橋の上には線路が残り(木も生えていますが)すぐ隣に架かる晴海通りの春海橋や豊洲側の緑地から観察することができます。

この橋は廃線後永らく放置状態で行く末が危惧されていましたが、その価値が認められたのか2021年から港湾局による保存事業が始まり、いまは橋脚の補強工事などが行われています。2024年~2025年頃には遊歩道として整備され、ライトアップなども行われる予定だそうです。ただ遊歩道になると橋上の線路は撤去されてしまうかもしれず、安全のために手すりなどが設置されることも容易に想定されますので、リアルな廃線の情景を見たい方は今のうちです。

貨物線として運行していた当時の状況などは、東京都港湾局(東京都港湾振興協会)のアーカイブで見ることができます。晴海橋梁を渡る貨物列車の写真もありますので興味のある方はどうぞ。
東京都港湾局「東京港貨物専用鉄道のあゆみ」はこちら。

なおこの路線は建設当時、晴海から更に海を越え芝浦、大井方面へ延長して東海道の貨物線に連結し、東京湾岸をぐるりとつなぐ計画がありました。増え続ける貨物量を想定し京浜地区と総武線、常磐・東北線方面を都心を経由せずに結ぶバイパス路線の役目を期待したようです。しかし貨物輸送を取り巻く社会環境の変化は予想以上に早く、いまは京葉線とりんかい線が目的を変えた旅客線としてその構想を引き継いでいるかのようです。

街なかに残る「東京都港湾局専用線」の足跡を訪ねてみましょう。

街なかに残る「東京都港湾局専用線」の足跡を訪ねてみましょう。
街角の案内図にも晴海橋梁は「鉄道橋」と記されています。

さて晴海橋梁ほどのインパクトはありませんが、周辺にもいくつか「廃線」の痕跡を見ることができます。残念ながら豊洲エリアは街区自体が大きく変わってしまい当時の面影はまったくありませんが、貨物線が通っていた場所の歩道の一部に線路風のオブジェがつくられているので探してみてください。このあたりは緑が多くゆったりとした遊歩道が整備され、近隣の方が散歩する姿も多く見られます。

豊洲北小学校の北東側、豊洲と塩浜の間を横切る豊洲運河にも貨物線の橋梁がありましたが撤去され、ふたつのコンクリートの橋脚だけが残っています。塩浜側は倉庫や工場の立地も多く雰囲気はだいぶ異なり、廃線跡は駐車場やぽっかり細長く広い空き地となっているので地図でも現地でもすぐにわかるでしょう。

豊洲運河には2基の橋脚だけ残されています。

線路の跡地は空き地や駐車場となっている場所が多いです。

ここでは首都高速の枝川出口のある三差路交差点から汐見運河を渡り北に向かって左側の歩道を歩いてください。生コン会社の駐車場の横に木々が茂っている、その筋の人が見れば“不自然な”一角があります。

金網の間から覗いてみると、赤錆びた線路が伸びています!間違いなく東京都港湾局専用線の線路です。夏場より草葉が少なくなる秋冬のほうがよく見えるでしょう。線路脇には踏切用と思われる電気機器箱も残されています。周囲には看板も何もなく人目につきにくい場所だけに“発見”の愉しみがあるかもしれません。しかし、GoogleMAPを見てください。「深川線路の跡」というピンマークがあり、わかりやすく撮れている線路の写真も見ることができます。なんという世の中になったのでしょう。。。

少し”怪しい”茂みがあります。。。

木の間からわずかに線路が見えます。

踏切用と思われる機器のボックスも残っています。

気を取り直して廃線跡をもう少し辿ってみることにします。線路はこの道路を踏切で渡って反対側、マンションと倉庫の間の、ここも今見ると不自然な細長い空き地のところを通っていました。首都高速の下、三つ目通り沿いの特養老人ホーム南側まで来ると、駐車場とマンションの間を今度は堂々とまっすぐ伸びている線路を見ることができます。線路の両側に少し高くなったホーム状の構造物がありますが、かつてはこの上にも線路が敷かれていたようです。

細長い駐車場の端にある塩崎保育園まで来ると、そこから東側は現役の線路、JR東日本越中島貨物駅の終端部になります。東京都港湾局専用線はこのあたりで旧国鉄線に合流、線路は小名木川貨物駅を経て総武本線の亀戸駅までつながっていました。

いま越中島は貨物駅の名がついていますが、扱っている積み荷は鉄道のレールのみ、船で運ばれてきたレールを各所に輸送するため1日に2~3本のレール輸送列車が運転されているようです。しおかぜ橋という人道橋からは貨物駅や地下トンネルから出てくる京葉線の電車を遠望することができます。

コンクリートのブロックが「終点」。ここから向こう側の線路は「現役」です。

しおかぜ橋から豊洲方面を見ています。

越中島貨物駅からの線路がここまできています。時々列車が入ってくるのでしょうか。京葉線の東京行電車が地下トンネルに入っていきました。

「東京都港湾局専用線」廃線跡の巡りかた

「東京都港湾局専用線」廃線跡の巡りかた

東京の湾岸地区に残る廃線跡「東京都港湾局専用線」。ここではメインでもある晴海橋梁から越中島に向けて紹介しましたが、実際には逆方向、越中島付近から順に巡ったほうがフィナーレに大きな構造物にたどり着くという満足度の高いルートになると思います。

当時のルートを忠実に辿ってもよいですが、ここに紹介した2・3のスポットを寄り道しながらのお散歩気分で訪ねることもおすすめです。ピンポイントで、という方にはもちろん晴海橋梁がイチオシ。日々変わりゆく東京の街に残る「変わらない風景」を、汐風の中ぼんやりと眺めてみるのもよいかもしれません。

晴海橋梁へのアクセス
東京メトロ有楽町線豊洲駅から徒歩10分、または東京メトロ有楽町線・都営地下鉄大江戸線の月島駅から徒歩約15分
周辺の廃線跡めぐりには各所にサイクルポートがあるシェアサイクル「BE FREE Tokyo」も便利です。

レールウェイマップルでは全国の廃線を俯瞰できます

レールウェイマップルでは全国の廃線を俯瞰できます

レールウェイマップルは、全国鉄道路線全線全駅に加え、戦後75年の間に廃線となった約750の路線と駅を収録しました。今回訪ねた「東京都港湾局専用線」も地図スケールの関係で概略ですが掲載しています。消えていった路線がどんなところを走っていたのか、どんな役割があったのかを俯瞰的に読み解くことができる「地図帳」で、時間と空間の旅行を自在に楽しむことができます。400ページを超えるボリュームのため、外出先での確認に便利な電子書籍版も好評発売中です!

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