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【連載エッセイ・第7回】猫と田舎で暮らしてみた~6匹と僕たちの里山生活~

高橋のら

更新日: 2021年2月11日

【連載エッセイ・第7回】猫と田舎で暮らしてみた~6匹と僕たちの里山生活~

東京生まれ、東京育ち。9年前に奥さんと、大分・国東半島へ移住。

そこで出会った猫たちと、こんどは、自然豊かな伊豆の田舎へ。

ゆっくりと流れる時間のなかで、森や草むらで自由に駆け回る猫たちと、一緒に暮らす日々のあれこれをお伝えしていきます。(毎週火曜日・金曜日に公開)


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伊豆に住んで6年目の終わりに

炭を焚くと冬の匂いがする。部屋の中が柔らかに暖まる。その暖かさはストーブともエアコンとも違うし、意外なようだけど薪ストーブとも違う。音もなく、懐かしい匂いと暖かさが家の中に満ちていく。

伊豆に住んで6年目の終わりに

炭の匂いを知っている人にはなぜか心落ち着く囲炉裏端。

別荘用に建てられた家は、束の間の非日常を楽しむ趣があちこちに点在している。そこが一般の住宅にはない面白味なのだけれど、裏を返せば一般の生活を営むには多くの不便を強いられるということにもなる。
でもね、その不便を楽しむぐらいの気持ちが「生活の行間」なんじゃないかな? と僕は思ったりする。家の中の無駄な段差や階段や、何のためについているか分からない出入り口や囲炉裏が生活の行間なら、猫たちもその無駄な行間を結構気に入ってくれているみたいな気がする。

樹齢40年のしだれ桜は自然の作ったキャットタワー。

ちょっと陽の傾いた夕刻前になって、庭の隅に積み上げてある落ち葉と枯れ葉を焼却炉へ突っ込んで火をつけた。
ぱちぱちぱち。
茶色く枯れた杉の葉が爆ぜる音は耳よりも心に響くもの。そして枯れ葉の燃える匂いは不思議に懐かしいもの。時々どこからか猫が駆け寄ってきて、火の暖かさと枯れ枝の燃える音に小さな鼻をくんくんさせる。
「あったかいだろ?」
「うん、あったかいね」
猫たちの黒い瞳がそう言っている。火を囲むという言葉がある。僕は猫たちと庭の片隅に火を囲む。夕日を映した大室山の黄金色な頂が見えている。山裾に吹き降ろす風は冷たいけれど、ぱちぱち弾ける炎は僕と猫たちの身体を暖めている。

仲のよい次男と末娘。猫たちも庭に居心地のいい場所を見つけ始めた。

毎年うちの奥さんは全て庭にあるものでクリスマスリースと正月のしめ飾りを作る。枯れた草の蔓や、コガネモチの赤い実やヒイラギの葉を組み合わせて作る素朴なクリスマスのリース。これがなかなか田舎ならではの楽しみなんだ。
街に煌めく豪華なイルミネーションもないし、華やいだ歌も聴こえてこない山の麓。僕たち夫婦と6匹の猫たちだけで過ごす静かな静かなクリスマスとお正月。それは庭の隅で燃える焚火みたいに暖かで優しい時間。猫たちの寝息だけが聴こえる静かな夜は、ゆっくりゆっくり更けていくのでした。

猫たちに邪魔されながら作るクリスマスの飾り。

12月から始まったこの連載で、僕たち夫婦と6匹の猫たちがどうして伊豆で暮らし始めたのかを少しは知ってもらえたでしょうか? 年が明けた来年からは季節の景色とその中で暮らす猫たちの姿をお届けします。
またその時々で伊豆へ遊びに来る人たちに向けて、地元民がお勧めできるようなちょっとした情報なんかもお知らせできたらいいな、と思っています。

今年はこんな風にできあがりました。

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※掲載の情報は取材時点のものです。お出かけの際は事前に最新の情報をご確認ください。

【筆者】高橋のら

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1960年東京生まれ。製本業経営を経て編集プロダクションを設立。
2011年に東京から大分県国東市へ移住し、2014年に国東市から静岡県伊豆半島に転居しました。現在は伊豆の家で編集業を営みながら仕事上のパートナーでもある家内と、国東で出会った6匹の猫たちと共に暮らしています。
国東での猫暮らしを綴った著書「猫にGPSをつけてみた」雷鳥社刊があります。