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日本一の海苔養殖場だった大森の海

歌川広重『名所江戸百景 南品川鮫洲海岸』1857年 出典:「錦絵でたのしむ江戸の名所」

大森は、海苔養殖の始まりの地でした。その始まりは、先ほどの碑文にもある通り、江戸時代初期(1682年)です。
ここから全国へ生産方式が伝えられました。現在では九州・有明海、愛知・三河湾などが生産地として知られています。

大森の沿岸部は、栄養豊富で遠浅なため、海苔養殖に適していたようです。江戸時代中期に、ここから品川にかけての沿岸部で、海苔養殖は盛んになりました。それは、品質の高さから「御膳海苔」「本場海苔」とも呼ばれ、将軍家にも献上されていました。当時の養殖風景は、江戸の浮世絵にも描かれています。

1936年頃 空中写真 現在の大田区大森東3丁目付近    出典:国土地理院ウェブサイトから加工

やがて明治から昭和初期には、大森の海苔養殖は、生産量日本一となり最盛期を迎えます。
その頃の空中写真を見ると、その光景がうかがい知れます。青線範囲にある貴船掘には、養殖に使用される「海苔船」と呼ばれる小舟が並んでいるようです。

しかしながら、時代の流れとともに、東京湾の水質が悪化していきます。また、経済成長による貨物需要増大を背景に、大型船の航路開設や、湾内の埋立事業が決定されます。その結果、大森の海苔養殖は、300年近い歴史に幕を下ろすことになったのです。

大森に今も息づく海苔文化

2022年発行「街の達人 全東京」より(クリックで拡大)

実は、ここ大森の海苔産業は、終わっていませんでした。
現在も、多くの海苔問屋が営業を続けているのです。全国に約400軒ある海苔問屋のうち、50軒近くがこの大森に集中しています。これは、大森が、現在も海苔流通の中心であることを意味しています。

大森の海苔養殖業は幕を下ろしましたが、海苔の加工や目利きの技術は、現在も受け継がれているのです。

こうした大森の海苔産業を、未来に伝えていくための展示施設があります。
大田区平和の森公園内にある「大森 海苔のふるさと館 」(見学無料)です。
公式サイトはこちら→https://www.norimuseum.com/

ここでは、海苔生産用具などの文化財を展示しているほか、海苔つけ体験のイベントが開催されています。(冬季のみ・事前申込制)

地域に根付いた地場産業を探る

さて、今回は1968年の古地図から、大森のちょっとした歴史を紐解いてみました。
東京の海苔産業は、東京湾埋立てにより消えたものと思っていました。しかし、今も全国の海苔流通の中心となっている事実を知り、少々感動しました。

かつて隆盛を誇った地場産業が、人知れず、少し形を変えて地域に根付いている・・・このような好例は、他にまだまだありそうです。みなさんも「ちょっと昔」地図から、小さな時間旅行に出かけてみては如何でしょうか。

【参考とした資料:井上潔「顕彰碑が語る東京湾海苔漁業の盛衰」(一社)全国水産技術協会『JFSTA NEWS』No.40、大森本場乾海苔問屋協同組合公式サイト、大森海苔問屋街公式サイト、錦絵でたのしむ江戸の名所(https://www.ndl.go.jp/landmarks/)】

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昭文社が刊行してきた都市地図には、道路や鉄道、河川など街の骨格となる情報はもちろん、町丁名や地番、学校・役場などの公共的施設から、住宅団地やアパート、スーパー・デパート、工場や倉庫などの民間施設まで豊富に掲載してきました。収録内容も時代とともに変化するなど、地図はその時々の景観や暮らしが垣間見える「街の記憶」でもあります。

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<商品の概要>
◆収録されている都市地図の刊行年 「1968年」「1985年」「2001年」「2014年」

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※掲載の情報は取材時点のものです。お出かけの際は事前に最新の情報をご確認ください。

現住所は地図雑学系ライター、本籍は地図実踏調査員。昭文社地図の現地調査歴15年以上の、自称「地理のプロフェッショナル」チームです。これまで調査・取材で訪問した市区町村は、およそ500以上。昭文社刊『ツーリングマップル』『全国鉄道地図帳』等の編集に参加しています。休日は、国内外の廃線、廃鉱など「廃」なものを訪ねる「廃活」、離島をめぐる「島活」中。好きな廃鉱は旧羽幌炭鉱、好きな島はサンブラス諸島(カリブ海)と大久野島。特技は「店で売ってる野菜の産地名⇒県名を当てること」。

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