奈良に「夢の国」を創りあげたのは、「昭和の興行師」として知られる実業家の松尾國三（まつおくにぞう）。終戦後に観光ホテルを開業したり、歌舞伎の劇場を建てて興業を取り仕切ったりして財を成した実業家です。

松尾國三が遊園地を手がけるきっかけとなったのは、昭和33（1958）年に歌舞伎の親善公演の打ち合わせでアメリカを訪れたときのことです。カリフォルニア州アナハイムにオープンして4年目のディズニーランドを目にして感動し、日本版ディズニーランドの開業を思い立ったといわれています。

向こう見ずながら行動力の塊のような松尾國三は、アポイントも取らずにディズニーランド創立者のウォルト・ディズニー本人に面会を求め、直談判に持ち込んでしまいます。似たような申し出を繰り返し受けていたディズニーは「応援しましょう」と軽く答えますが、正式な契約を交わしたわけではありませんでした。

1か月後には、松尾國三は技術スタッフを連れて渡米し再びディズニーに会い、早々にディズニーランドの測量に取りかかったといいます。

帰国した松尾國三は、奈良県からの申し出を受けて、日本版ディズニーランドを奈良市法蓮佐保山地区の黒髪山に完成させ、開園時は大盛況。ところが、1、2年経つうちにアクセスの不便さが原因となり、客足が遠のき始めます。

さらに奈良ドリームランドの開園2か月後には、第二室戸台風に襲われ、施設の一部が損壊してしまいます。

しかし、松尾國三はめげることなく「夢の国」の第2弾として、昭和39（1964）年、「横浜ドリームランド」を開園。しかし、こちらもアクセスの問題が発端となり経営不振に。結局、2002年に閉園し、奈良ドリームランドも2006年に閉園となりました。

跡地は、利用規制の複雑さから公売にかけられるも入札がなく不成立。2015年にようやく大阪市の不動産会社が買収しましたが、利用方法は未定のままです。

さて、消えた奈良ドリームランドと違い、大成功を収めた東京ディズニーランドですが、誘致交渉段階ではディズニー本社との話し合いが難航したらしいといわれます。奈良ドリームランドが本家を忠実に再現しなかったことで「まがい物」と判断され、本社が問題視したためでした。

結果的に、日本版ディズニーランドにはなれなかった奈良ドリームランドですが、「鹿と仏像だけでは奈良はつぶれる」とさえいわれた時代に、地域の起爆剤として果たした役割はあった、と見る向きもあるようです。

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