堺は現在の堺市堺区一帯に相当し、古代から西日本と海外をつなぐ主要港として栄え、戦国時代には日本有数の物流拠点として高い経済力を獲得しました。そうした富をもたらしたのが、日明・南蛮貿易による利益と鉄砲生産です。

商人の自治組織である「会合衆（えごうしゅう）」によって運営された堺は、どの大名の支配下にも属さず、町周辺に濠や柵を張りめぐらせて独自の自衛力まで整備していました。

とはいえ、完全に独立していたわけでなく、室町幕府の御所を一時的に置くことや、貿易利権と鉄砲に目をつけた織田信長に自治権を制限されることもありました。

しかし自治機能そのものと高い経済力は戦国末期まで喪失することはなく、その繁栄ぶりはイエズス会宣教師のルイス・フロイスから「東洋のヴェネツィア」とも呼ばれるほどでした。

もういっぽうの自治都市である平野は、現在の大阪市平野区の中心部にあたります。戦国時代、土地の有力者だった平野七名家（しちみょうけ）が大和・河内方面の有力商人と結託し、周辺集落を１つにまとめて濠や柵で防備を固めました。これが独立商業都市平野のはじまりです。

町の自治は七名家の一族が担当し、街道と河川を使った水運で巨万の富をつくりあげました。また、ベトナムと交易した末吉（すえよし）氏のように、アジア方面で活躍した貿易商も多数輩出しています。経済力は絶大で、信長の圧力を受けた堺が協力を求めたこともあったといいます。

このようにして戦国時代でも自治を貫いた両都市ですが、1614年からはじまった「大坂の陣」に巻き込まれて焼失。江戸時代に入って幕府の支援で復興したものの、関西の経済拠点が大坂に移転したことで最盛期のような経済力は失われてしまいました。

堺はその後、鉄砲を主とする職人の町として復活し、明治時代以降は周辺の自治体を合併して市域を広げ、2006年には政令指定都市となりました。

平野も水運と綿作の成功で大阪有数の都市となり、現在は大阪市の行政区として存続しています。

大阪府の地形や地質、歴史、文化、産業など多彩な特徴と魅力を、地図を読み解きながら紹介するマップエンターテインメント。大阪府の知っているようで知られていない意外な素顔に迫ります。思わず地図を片手に、行って確かめてみたくなる情報を満載！

【見どころ―目次より抜粋】
Part.1：地図で読み解く大阪の大地
大阪の歴史は水を起源とするとされる理由
大阪府の属する関西・近畿・畿内の違い
こんなに違った古代の大阪! 消えた河内湾と河内湖　ほか

Part.2：大阪を駆ける充実の交通網
西国へ、京都へ、熊野へ府下を通る旧街道の痕跡
どの道路が、なぜ混むのか？大阪の道路網の現状
徹底比較! 大阪の私鉄（阪急電鉄と阪神電鉄、京阪電気鉄道、近畿日本鉄道、南海電気鉄道）　ほか

Part.3：大阪の歴史を深読み!
幕府軍が落とせなかった千早赤坂城の秘密
織田信長に恭順して残された富田林寺内町
天下の台所として日本経済を支えた中之島　ほか

Part.4：大阪で生まれた産業や文化
ダイハツ、パナソニック・・企業城下町の今
万博、花博、EXPO2025など国際博覧会の最多開催地・大阪
偉人たちが好んで食したなにわの伝統野菜　ほか

<コラム>
データで分かる74市区町村 人口と所得、観光、工業・農業・漁業
絵図で見る 大阪の川と「八百八橋」
鳥瞰図で見る 100年前がわかる大阪市パノラマ地図
鳥瞰図で見る 吉田初三郎が描いた90年前の大阪府
鳥瞰図で見る 大阪周辺にある歴代天皇・皇族の陵墓
絵図で見る 大坂冬の陣における諸将の配置
一見の価値あり! ヘンチクリンな建築物