フリーワード検索

ジャンルから探す

トップ > カルチャー >  関東 > 東京都 >

どうして羽田に可動橋?

さて、羽田可動橋に話を戻しましょう。

羽田可動橋は、東京都心と羽田空港や神奈川県を結ぶ、首都高速道路羽田線にあります。
そもそも、何故ここに、橋が建設されることになったのでしょうか。

この橋が計画された当時、この橋の直下には、既に、首都高速羽田線のトンネルが開通していました。しかし、このトンネル付近は慢性的な渋滞に悩まされていました。そこで、渋滞を軽減するため、このトンネルを経由せずに高速道路本線に合流できる、羽田空港方面からの入口として設置が検討されたようです。
簡単に言えば「トンネルの上に別ルートを作って、渋滞を緩和させる」という発想だったのでしょう 。

普通の橋ではなく「可動橋」として建設されたのは、先に述べた「水上交通と陸上交通とを両立」させるという理由からです。

当時この橋のある海老取川沿いには、鉄工所や工場などが立ち並んでいました。そして、資材輸送のため大型船の往来があったようです。つまり、船の通行に支障が出ない形で、橋を建設することが必要だったのです。

1998年発行 シティマップル 東京都/昭文社 より

橋の特殊な構造には、羽田という立地が関係していた?

羽田可動橋の建設にあたり採用されたのが、先述の、橋桁が水平方向に回転する「旋回橋」方式です。
日本では他にあまり例がない特殊な形式で、天橋立(京都府)にあるものが知られています。

これが採用された理由は、すぐ近くに羽田空港があったことが関係しているようです。
飛行場周辺では、飛行機が安全に離着陸できるよう、高い建物が建てられません。橋桁が跳ね上がる跳開橋ですと、このルールに抵触する可能性が出てきます。一方、水平方向に回転する旋回橋なら、この高さ制限に収まりそうです。
つまり、航空機の安全な飛行に配慮する必要があったから、ということになります。

さて、はっきりした理由は分かりませんが、この橋はその後8年程度で運用を停止します。

考えられる理由のひとつとして、可動橋開通4年後に、首都高速湾岸線が開通したことが挙げられます。
この別ルートの開通によって交通が分散、羽田線の渋滞が解消されていったとすれば、この可動橋ルートの必要性は低下します。
つまり、渋滞迂回ルートとして使用されたが、渋滞解消により需要が無くなった、ということなのでしょう。

他にもあるぞ! 東京の可動橋

さて、可動橋は、東京都内に他にも存在しています。
ここで、その一部を簡単に紹介しましょう。


■ 勝鬨(かちどき)橋 (中央区築地・勝どき 1940年完成)
隅田川の河口付近に架かる国内最大級の跳開橋です。大型船の通行減少と自動車の通行増大等により、1970年を最後に開閉していません。 稼働していた当時の歴史は、橋のたもとにある「かちどき 橋の資料館」で知ることができます。ここでは橋内部見学ツアー(予約制)も開催されています。(※現在休館中・ツアー休止中)


■ アーバンゲートブリッジ (江東区豊洲 2006年完成)
勝鬨橋からほど近い商業施設「ららぽーと豊洲」にあります。かつてIHI(旧 石川島播磨重工業)の造船所があった場所で、施設内のドック跡を跨ぐように架けられています。(地図上で「水上バス発着所」のある所)。水上バスの発着時のみ跳ね上げられるようです。東京で開閉する可動橋を間近で見られるのは貴重かもしれません。(※現在、水上バス運休中)

羽田可動橋の今。 現在は「開かず」の橋ならぬ「開いたまま」の橋

羽田可動橋の今。 現在は「開かず」の橋ならぬ「開いたまま」の橋

さて、動かなくなった可動橋は、その後どうなったのでしょう。

こちらが現在の羽田可動橋周辺の地図です。稼働休止状態が長く続いているため、地図から削除されています。
橋の位置は、地図上の首都高速「羽田トンネル」のほぼ直上です。

出典:国土地理院ウェブサイト

2019年撮影の空中写真を見ると、橋は開いたままになっています。
8年程度でその設備が使われなくなった事が、「橋の稼働を間近で見たい!」と思う筆者には、少し惜しく感じられます。

画像:PIXTA

羽田可動橋は、実際に外から自由に見学することが可能です。海老取川の堤防沿いは遊歩道があり、間近まで行くことができます。「稼働」しなくなった可動橋ですが、現物を見て旋回する様子を想像してみるのも一興です。一度足を延ばしてみてはいかがでしょうか。

さて、今回は、平成時代初期の地図から、ちょっと風変りな可動橋の短い歴史を振り返ってみました。
みなさんも「ちょっと昔」地図から、小さな時間旅行に出かけてみては如何でしょうか。

(参考とした資料:「可動橋一覧」の作成と近代可動橋の現在と評価【土木史研究 第12号 1992年6月 自由投稿論文】、大田区公式サイト、乗り物ニュースサイト、東京都建設局サイト、江東区内の橋めぐりサイト、東京の可動橋サイト)

【好評発売中】MAPPLEアーカイブズ 昭和・平成 都市地図 大田区 Kindle版

【好評発売中】MAPPLEアーカイブズ 昭和・平成 都市地図 大田区 Kindle版
Amazon

昭文社が刊行してきた都市地図には、道路や鉄道、河川など街の骨格となる情報はもちろん、町丁名や地番、学校・役場などの公共的施設から、住宅団地やアパート、スーパー・デパート、工場や倉庫などの民間施設まで豊富に掲載してきました。収録内容も時代とともに変化するなど、地図はその時々の景観や暮らしが垣間見える「街の記憶」でもあります。

この商品は昭和40年代以降に出版した大判の都市地図から、時代の変化がわかる4世代の地図を選出・複製し、どこでも手軽に利用できる電子書籍として編集・構成したものです。

銭湯や映画館、銀行や郵便ポストなど生活密着の情報から、住宅団地の整備、工場跡地の再開発まで、様々な街の様子や移り変わりを地図から読み解きつつ、昭和から平成に至る社会の変化と合わせて時間を辿ってみてはいかがでしょうか。

<商品の概要>
◆収録されている都市地図の刊行年 「1968年」「1985年」「2001年」「2014年」

1 2

※掲載の情報は取材時点のものです。お出かけの際は事前に最新の情報をご確認ください。

現住所は地図雑学系ライター、本籍は地図実踏調査員。昭文社地図の現地調査歴15年以上の、自称「地理のプロフェッショナル」チームです。これまで調査・取材で訪問した市区町村は、およそ500以上。昭文社刊『ツーリングマップル』『全国鉄道地図帳』等の編集に参加しています。休日は、国内外の廃線、廃鉱など「廃」なものを訪ねる「廃活」、離島をめぐる「島活」中。好きな廃鉱は旧羽幌炭鉱、好きな島はサンブラス諸島(カリブ海)と大久野島。特技は「店で売ってる野菜の産地名⇒県名を当てること」。

エリア

トップ > カルチャー >  関東 > 東京都 >

この記事に関連するタグ