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松竹蒲田撮影所 ここにかつて存在した映画の街

「蒲田行進曲」という歌謡曲をご存知でしょうか。昭和初期に発表され、流行歌になった曲です。
この曲で「キネマの天地」と歌われている映画撮影所。その「松竹キネマ蒲田撮影所」があったのが、この高砂香料工業の場所なのです。

1925(大正14)年 1/25000 地形図 川崎 「今昔マップ」より

松竹キネマ蒲田撮影所は1920年に開設しました。
当時の地図をみると、駅周辺は、まだ開発がそれほど進んでいないようです。図中の「宿」の字の左側一帯が、撮影所の位置です。大がかりなセットを組むための広い敷地、録音に必要な静かな環境、駅から至近で通勤に便利だったことなど、映画製作には好立地だったのではないでしょうか。

ここには俳優学校も併設され、周辺には時代を彩った映画スター達が数多く住んでいました。「流行は蒲田から」と言われるほどの華やかさと、活気にあふれていたそうです。ここで1000を超える映画が、作り出されました。

先の歌謡曲「蒲田行進曲」が生まれたのも、この華やかな時代でした。この曲は、撮影所の所歌にも採用されています。後年、映画「蒲田行進曲」(1982年公開)で主題歌になったことで、世に広く知られるようになりました。

やがて、軍備拡大という時代の流れにより、周辺が次々と軍需工場に転化していきます。その結果、撮影に差し支えるほどの工場騒音が問題となり、閉所を余儀なくされます。撮影所が神奈川県大船に移転したのは、1936年でした。跡地は、隣接していた高砂香料工業に継承されます。

時代が変わり現在、JR蒲田駅の発車メロディーには「蒲田行進曲」が採用されています。
これ以外にも、当時の痕跡をもう少し調べてみましょう。

蒲田撮影所跡地の今 「キネマ」から「アロマ」へ

昭文社発行「街の達人_全東京」より

こちらが、跡地とその周辺の現在の地図です。「アロマスクエア」(1998年竣工)と呼ばれる複合施設になっています。
お気づきでしょうか。この「アロマ」という名は、高砂香料工業に由来するものです。「香り」を英語でいうと「アロマ(aroma)」ですね。この施設の竣工に合わせて、高砂香料工業は、本社をこの地に戻しています。

複合施設の一つ、大田区民ホール「アプリコ」入口には、当時撮影所前に架かっていた橋の親柱が、保存されています。地下には、撮影所のジオラマ模型が展示されていて、当時の様子をうかがい知ることができます。
※2023年2月(予定)まで改修工事のため休館。

また、高砂香料工業本社には「高砂コレクション・ギャラリー」(見学無料)が併設されています。そこでは、古代ギリシア・ローマ時代の香油壺から人間国宝が手掛けた香炉まで、多彩な「香り」に関するコレクションを見ることができます。

身近な施設の名称に込められた歴史

さて、今回は1968年の古地図から、蒲田駅前のちょっとした歴史を紐解いてみました。実は、筆者はこの付近で働いたことがありますが、「アロマスクエア」の由来や歴史については、今回初めて知りました。

みなさんの身近にある施設の名前にも、意外な由来や歴史が秘められているかもしれません。「ちょっと昔」の地図から、小さな時間旅行に出かけてみては如何でしょうか。

【参考とした資料:業界動向サーチ https://gyokai-search.com/、大田区公式サイト、松竹株式会社公式サイト、高砂香料工業株式会社公式サイト】

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昭文社が刊行してきた都市地図には、道路や鉄道、河川など街の骨格となる情報はもちろん、町丁名や地番、学校・役場などの公共的施設から、住宅団地やアパート、スーパー・デパート、工場や倉庫などの民間施設まで豊富に掲載してきました。収録内容も時代とともに変化するなど、地図はその時々の景観や暮らしが垣間見える「街の記憶」でもあります。

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◆収録されている都市地図の刊行年 「1968年」「1985年」「2001年」「2014年」

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※掲載の情報は取材時点のものです。お出かけの際は事前に最新の情報をご確認ください。

現住所は地図雑学系ライター、本籍は地図実踏調査員。昭文社地図の現地調査歴15年以上の、自称「地理のプロフェッショナル」チームです。これまで調査・取材で訪問した市区町村は、およそ500以上。昭文社刊『ツーリングマップル』『全国鉄道地図帳』等の編集に参加しています。休日は、国内外の廃線、廃鉱など「廃」なものを訪ねる「廃活」、離島をめぐる「島活」中。好きな廃鉱は旧羽幌炭鉱、好きな島はサンブラス諸島(カリブ海)と大久野島。特技は「店で売ってる野菜の産地名⇒県名を当てること」。

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