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漏刻(水時計)で時間の概念を変えた中大兄皇子

なかでも中大兄皇子の功績として特筆したいのが、日本初の水時計(漏刻(ろうこく))を使用し、政治や人々の暮らしに明確な時間意識を与えたことです。『日本書紀』には斉明(さいめい)6(660)年、「皇太子が漏刻を造り民に時を知らせた」と記されています。その跡地と目されているのが、飛鳥寺の北西に位置する飛鳥水落(みずおち)遺跡です。

飛鳥水落遺跡の周辺

飛鳥水落遺跡の周辺

徒歩2分ほどの距離にある石神遺跡とは地下水路でつながることから、水落遺跡をその付属施設とする説もあります。

漏刻の仕組み

漏刻は、容器に水を流し入れ、たまった水の水位の変化によって時間の推移を読み取る仕組みです。水落遺跡の漏刻は同時期の中国のものを参考に、複数の水槽を階段状に並べ管でつないでいたと考えられています。

水槽は漏壺(ろうこ)と呼ばれ、一番下の漏壺(箭壺(せんこ))の上には中国の十二辰刻制に基づいて時刻を刻んだ「箭(せん)」を持つ人形が置かれていました。十二辰刻制は24時間を12に割り、十二支の名をつけたもの。箭壺の水位が上がるにつれて箭も浮上し、その動きを見て時間の変化を把握したのです。

漏刻で時間を計るにあたっては、多くの人数を必要としていました。漏壺に水を注ぐ役、水位を読み時刻を告げる役、また時間を問わず水を流す役など人員を割いていたことからも、重要な設備だったのだと分かります。

漏刻は楼閣状の建物に設置されていた

水落遺跡からは花崗岩が積み重ねられた1辺22.5mの方形基壇と24本の柱穴、台石が出土。基壇内から銅管や木樋(きおけ)、漆塗木箱が見つかったことから楼閣状の建物に漏刻が設置されていたと考えられています。

漏刻が刻む正確な時刻

『日本書紀』に時刻に関する記述が登場するのは舒明8(636)年。官人の出退勤の時刻について記されています。ただ当時は日時計が使われており、天候に左右されて時間を正確に計ることはできませんでした。漏刻が造られて初めて正確な時刻を知ることができ、生活に取り入れられるようになりました。

漏刻の利用方法

漏刻はどのように利用されていたのでしょう。『日本書紀』には天智10(671)年に「初めて時をうつ。鉦鼓(しょうこ)が動く。」という記載があり、漏刻を見て決まった時刻に鐘や太鼓を打ち鳴らし、人々に時刻を知らせていたとされます。

漏刻を設置した中大兄皇子の意図

中国では、皇帝は時間と暦を支配する存在であり、時刻の報知や暦の頒布は皇帝だけに許された特権でした。中大兄皇子が飛鳥に漏刻を設置した意図もそこにあったのでしょう。

漏刻によって朝政に時刻制が敷かれ、官人の登退庁は決まった時間に行われるようになったと考えられています。それは官人のみならず、鉦鼓の音は飛鳥に住む人々に共通の時間意識をもたらし、暮らしを秩序付ける役割を果たしたのです。

飛鳥水落遺跡は漏刻の施設ではない可能性も

飛鳥水落遺跡は発掘調査による結果と『日本書紀』の記述により、漏刻が設置された施設である説が有力視されています。しかし、漏刻自体は見つかっておらず、そのほかの可能性も指摘されています。

そのひとつが天文台説です。漏刻を用いる際に楼閣状の建物は不要であるという考えから天文台説が登場。上階が開かれた作りであったとされ、漏刻だけでなく天文台の役割も兼ね備えた施設であったと考えられています。

また中国などに現存する漏刻には水落遺跡のような地下水路を持つ例がありません。そのため漏刻ではなく近隣の石神遺跡の噴水型石造物に付随し、安定した水圧を保つための施設であるという説もあります。

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