東京を起点とした交通網の整備は、沿線の人々にも恩恵をもたらしました。とくに明治初期には、埼玉県の製茶と養蚕が輸出品となりましたが、鉄道によって製品の輸送が容易になると、輸出・生産量ともに増大化しました。製糸業界は、それまでの手工業的な生産方法から工場生産へと切り替わっていき、埼玉県域は近代化していったのです。

また、東京が都市化するうえで欠かせない製品も埼玉県で製造されました。川口の鋳物（いもの）業、深谷の瓦や土管製造などは、鉄道を通じて製品が東京へと輸送され、地場産業として発展していきました。

交通網の整備は、輸送だけでなく人々の移動も容易にしました。首都圏の人口が増加するにしたがい、埼玉県内にも人口が流入してくるようになり、1920（大正9）年には県内人口が130万人を突破。この頃から県南地域は東京の衛星都市化が進んでいきました。

そして満州事変（まんしゅうじへん）から太平洋戦争までの十五年戦争に突入すると、徐々に東京からの疎開を受け入れるようになり、大戦末期の1945（昭和20）年には県内人口は200万人に到達しました。

戦時中、埼玉県域にも空襲はあり、とくに熊谷は終戦の前日に大規模な被害を受けました。ですが、関東のほかの地域に比べて埼玉県の被害は少なく、インフラや物資を温存でき、いち早く戦火から立ち直ることができました。戦時中に軍需物資を生産していた工場は、生活用品の生産へと転換し、日本の戦後復興を支えたのです。

昭和30年代に高度成長期を迎えると、人口過密な東京を避けて埼玉へ転入してくる移住者が増え、埼玉県の人口は爆発的に増加していきました。1960（昭和35）年には約243万人（全国10位）だった県内人口は、各地にマンモス団地が造成されてさらに転入者の受け皿となった結果、1985（昭和60）年には約586万人（全国５位）にまで膨れあがり、東京のベッドタウンとしての機能を果たしていきます。ただし、その過程で環境破壊や産業廃棄物の不法投棄など、さまざまな問題が発生しました。

日本の各県の地形や地質、歴史、文化、産業など多彩な特徴と魅力を、地図を読み解きながら紹介するマップエンターテインメント。埼玉県の知っているようで知られていない意外な素顔に迫ります。思わず地図を片手に、行って確かめてみたくなる情報を満載！