山梨県で印伝が広がったのは、江戸時代に鎧兜などの武具を作っていた上原勇七（うえはらゆうしち）の影響と言われています。印伝の美しさに魅了され、漆付けする独自の技法を創案。国の伝統的工芸品に認定されている「甲州印伝」の礎を築きました。甲府市にある「印傳屋 上原勇七」は代々その名前を継承し、伝統を地域に伝えてきました。

甲州印伝が根付いた背景には、山に囲まれた地形があります。山には多くの鹿が生息。漆も豊富だったといいます。そして、農閑期に山梨県外へ出稼ぎに行った人たちの持ち物に甲州印伝があったことから、各地でその魅力が広がったとも言われています。

鹿の革をなめして加工し、漆で模様をつける甲州印伝には、3つの伝統的な技法が用いられています。

「燻（ふす）べ」は鹿皮を筒に貼り、藁を焚いていぶした後に松脂で自然な色に仕上げる古来の技。「漆付け」は染め上げた鹿革に手彫りの型紙を置いて漆を刷り込み、模様を浮かび上がらせます。「更紗（さらさ）」は一色ごとに型紙を変えて色を重ね、鮮やかな色彩の調和を生み出します。

その特徴は、強度がありながら柔らかな鹿革と漆でつけた模様。他の地域の鹿革よりも上質で、伝統が一度も途絶えずに継承されていることが、伝統工芸品となった理由でもあります。

デザイン性も高く、桜や菖蒲といった花や、トンボや富士山など自然や季節を表現したものが多くみられます。製品は巾着や財布のような定番から、時代の変化にあわせて、名刺入れや化粧ポーチ、スマートフォンのケースまで幅広く展開しています。

近年では、グッチやティファニーといった海外の高級ブランドと企画した商品や、ハローキティやとなりのトトロなどの人気キャラクターをあしらった商品も販売。伝統を守りながら進化しています。

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