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玉川上水と多摩川

問題になったのが水はどこからもってくるかということでした。江戸の町の近くには隅田川がありますが、江戸市中よりも標高が低いところを流れているので、水は引けません。

そこで、注目されたのが多摩川でした。武蔵野台地の西端から坂を下るように流れている多摩川の水を江戸の町まで引き入れる壮大な計画が立てられたのです。

工事の総奉行に老中・松平伊豆守信綱(いずのかみのぶつな)、水道奉行に伊奈半十郎が命ぜられ、町人の庄右衛門、清右衛門兄弟(玉川兄弟)が工事を請け負い、幕府は兄弟に工事代として6000両を前渡しして、承応2(1653)年4月から工事が開始されました。

多摩川の羽村堰が取水口に選ばれた理由

多摩川の水を江戸市中まで引くにあたり最初に問題となったのは、多摩川のどこから取水するかでした。江戸の近くで取水すれば距離が短くて済みますが、下流だと標高が低すぎて江戸市中まで水を引くことは難しいのです。

いくつかの案から最終的に現在の羽村堰が取水口に選ばれました。多摩川の河口から約54kmも遡った地点です。江戸市中からは遠いですが、そこは多摩川が右側に大きく曲がっている場所で、多摩川の水量が減っても取水口の方へ水を勢いよく取り入れることができるところだったのです。

玉川上水は段丘をどうクリアしたのか

次に問題だったのは、取入口から多摩川の段丘を越えることでした。勾配を緩やかにする巧妙な技術を駆使して段丘を越え、武蔵野台地の尾根筋まで水を到達させました。あとは、江戸を北と南に分ける尾根筋を西側から江戸市中に向けて、標高差を生かして水路を造っていったのです。

玉川上水を完成させた玉川兄弟のすごさ

羽村から四谷大木戸(よつやおおきど)までの距離は約43km、標高は羽村が126mで四谷大木戸よりも92m高いです。単純に計算をすると、100mで約21cmの差があることになります。玉川上水の工事設計者の詳細は不明ですが、現在でも同じ工事を当時と同じ期間で行うことは簡単ではありません。幕府の命により突貫的な工事が行われたにしても、驚異の短期間で、しかも正確に仕上げた点は高く評価されるべきでしょう。

工事は承応2(1653)年11月には四谷大木戸まで掘り進み完成しました。43kmをわずか8か月で掘ったことになります。工事代金は途中の高井戸あたりで不足しましたが、工事を請け負った玉川兄弟は、私財も投げうって工事を続けたのです。玉川上水が完成すると、幕府は兄弟に玉川の名字を与え、玉川兄弟の一族は200石の扶持米と永代水役を命じられました。

玉川上水概況図

玉川上水概況図

羽村取水口から四谷大木戸までの約43kmを3つに分けることができます。

羽村取水口~小平監視所
取水口から約小平監視所まで。現在も水道原水の導水路として使用。小平監視所で取水後、地下の導管で東村山浄水場に送られます。

小平監視所~浅間橋
小平監視所から浅間橋(杉並区久我山、橋は消失)まで。淀橋浄水場の廃止で空堀になりましたが、現在は清流が復活しました。

浅間橋~四谷大木戸
浅間橋から四谷大木戸まで。大部分が暗渠となり、暗渠の上は緑道などに整備されています。

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