断層崖は、文字どおり断層運動で形成される急な崖。撓曲崖とは地下深くの活断層がずれることで、その上の地層がたわんでできる崖をいいます。長野県南部の伊那市付近から飯田市付近にかけて「伊那谷断層帯」という活断層帯が延びていますが、伊那谷の段丘の多くは、この活断層帯の活動でできた断層崖や撓曲崖によってできています。

伊那谷では、南北方向に天竜川が流れ、天竜川より西の木曽山脈側では、扇状地にできた段丘や断層崖を東西に横断するようにいくつもの支流が流れ込んでいます。このような地形を「田切（たぎり）地形」といい、このあたりを流れる川には太田切川（おおたぎりがわ）、中田切川（なかたぎりがわ）、与田切川（よたぎりがわ）など田切とつくものが多くあります。伊那谷の田切地形は、扇状地が断層によって分断されて段丘化したものです。

このように伊那谷の段丘の成り立ちは複雑で、河川によるものなのか、断層によるものなのか、見た目では判断が難しいのです。

まず、約200万年前に伊那谷の元となる地形ができました。その頃は、諏訪方面で火山が盛んに噴火しており、流れ出した火山泥流が伊那谷を埋め尽くして「ミソベタ層」という地層をつくりました。

約50万年前、山地が盛んに隆起し始めたため、天竜川の支流のはたらきで扇状地が盛んにつくられました。すると、中央アルプスから押し出された扇状地が盆地（低地）を埋め、同時に、河川による侵食も盛んになって段丘ができ始めました。

約10万年前、断層のはたらきで中央アルプスの隆起が活発化し、山麓では断層によって扇状地が重なり合って発達していきました。

そして約２万年前、断層の活動による山々の隆起は激しさを増し、扇状地を切る断層崖ができ、扇状地は深く侵食されて田切地形や河岸段丘がつくられていきました。

こうして、現在見られる特異な地形ができあがっていったと考えられています。日本でも有数の段丘を誇る伊那谷の地形は、河川による侵食と活断層の活動が複雑にからみ合ってつくり出されたものなのです。

・地形・地質総論「東西から圧縮されている長野」
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