フリーワード検索

ジャンルから探す

トップ > カルチャー >  関東 > 千葉県 >

利根運河の建設が計画された理由

江戸時代には大規模な河川改修が次々と行われ、水運による物流が栄えました。とくに利根川東遷は、銚子から利根川を遡り、関宿を経由して江戸川を下るルートを確立し、東北方面から江戸に向かう物資輸送の利便性を大きく向上させました。

ところが、このルートには問題点がありました。ひとつは浅瀬の出現による運航障害です。平野部を流れる河川の宿命ですが、上流からの土砂が堆積して浅瀬ができやすいのです。1783(天明3)年の浅間山大噴火による大量の降灰が状況を深刻化させました。また、関宿を経由すると、江戸に到着するまで2週間近くもかかってしまう点もネックとなりました。

利根運河ができる以前には陸路で難所をショートカットも

これらの問題を回避するために「新道」が開拓されました。それは利根川と鬼怒川が合流する付近で一度陸揚げし、陸路を使って江戸川へ向かい、江戸川で再び船に乗せて江戸に向かうというものでした。

利根運河が建設されるまで

そういう状況のなか、利根運河建設計画が1820(文政3)年にもち上がります。しかし、それは何十年も実現せず、ようやく事が動いたのは1881(明治14)年。茨城県議会議員の広瀬誠一郎らが茨城県令の人見寧(ひとみやすし)に陳情したことがきっかけでした。

ところが、鉄道敷設に重点を置く千葉県側は消極的で、説得を重ね何とか千葉県側の協力を取りつけたものの、膨大な予算が必要なことと、人見寧が県令を退任したことから話は進展しませんでした。業を煮やした広瀬は「利根運河株式会社」を発足させ、民間による開削に踏み切りました。

利根運河の設計をした知識豊富なオランダ人技師

1888(明治21)年7月14日に起工式が行われ、本格的な工事が始まりました。今のような重機はなくすべて手作業。延べ220万もの人々が工事にかかわったといわれています。

利根運河の設計は、運河工事にすぐれた技術力のあったオランダ人のお雇い技師ムルデルが担当。自然の地形を巧みに利用した利根運河は、着工から約2年後の1890(明治23)年6月18日、日本初の西洋式運河として竣工しました。

利根運河の栄枯盛衰

蒸気船の運河通行許可が下りると、内国通運会社と銚子汽船株式会社が運河を使って東京~銚子間の直行便を運航開始。その利便性から運河水運は大いに賑わいました。

しかし、好況は長く続きませんでした。鉄道網の充実や自動車の普及で陸運へのシフトが進み、水運が急速に衰退。そこへ度重なる自然災害が追い打ちをかけました。

そして1941(昭和16)年7月22日、利根川が大洪水を起こします。その結果、運河流頭部に設置された水堰(水門)や左岸の堤が決壊。水の流入で運河機能は完全に失われてしまいました。こうして利根運河は国有化されるとともに運河の役目を終えました。

利根運河の豊かな自然や史跡としての価値が見直される現在

その後の利根運河は、しばらく忘れ去られたような存在でしたが、環境用水として親水公園が整備されるなど、現在は人々の憩いの場として脚光を浴びています。

流域には豊かな自然が残されており、生物多様性の観点からも重要視されているほか、推奨土木遺産(土木学会)や近代化産業遺産群(経済産業省)に認定されるなど、地域の歴史や文化、産業を知るうえで欠かせない存在となっています。

利根運河の流路

利根川(柏市船戸)と江戸川(流山市深井新田)間の約8.5㎞を結ぶ利根運河。通船路の役目を終えて80年ほど経ちますが、水路自体はおよそ完全な形で残されています。流域には親水公園や遊歩道が整備されています。

『千葉のトリセツ』好評発売中!

日本の各県の地形や地質、歴史、文化、産業など多彩な特徴と魅力を、地図を読み解きながら紹介するマップエンターテインメント。本書では千葉県の知っているようで知られていない意外な素顔に迫ります。思わず地図を片手に、行って確かめてみたくなる情報を満載!

●収録エリア:千葉県全域

【注目1】千葉の地質・地形を徹底分析

・市原市を流れる養老川河岸の露頭に約77万年前の地層チバニアン発見!
・恐竜時代の岩石がむき出しの見て楽しい銚子のジオ巡り
・火山がない県なのに鴨川に海底火山が流出?
・繰り返される巨大地震の爪痕・南房総に発達する海岸段丘
・鋸山の絶景をつくった「房州石」とはどんな石?

・・・などなど、千葉のダイナミックな自然の成り立ちを解説。

【注目2】古代から中世、江戸時代、近現代の千葉の歴史を一望

・ふたつの大型環状貝塚からなる巨大な加曾利貝塚の謎
・32基もの古墳がつくられた富津の内裏塚古墳群とは?
・鴨川市小湊がゆかりの地、高僧・日蓮の波乱に満ちた生涯
・坂東太郎の流れを変えた徳川家康の利根川東遷
・日本地図を完成させた佐原村の名主・伊能忠敬の素顔
・廃藩置県で26県もあった千葉県域をどうやって統一?

・・・などなど、千葉の歴史のポイントがわかる。

【注目3】千葉を駆け巡る鉄道網をはじめ、千葉で育まれた文化や産業を紹介

・民鉄最高速160キロでスカイライナーが走れる理由
・成田空港線の高架橋は成田新幹線の遺構だった
・登山鉄道も計画された小湊を目指した小湊鉄道
・かつて千葉市の中心駅は京成千葉駅だった!?

・・・などなど、千葉を走る鉄道網の秘密に迫る。

また、銚子港が水揚げ量日本一を誇る理由や明治期最先端の土木技術が光る海の要塞・第二海堡とは?、皐月賞や有馬記念の舞台として知られるJRA中山競馬場の誕生秘話・・・など、千葉県にまつわる文化・産業の面白話もたっぷりと紹介します。

『千葉のトリセツ』を購入するならこちら

リンク先での売上の一部が当サイトに還元される場合があります。
1 2

※掲載の情報は取材時点のものです。お出かけの際は事前に最新の情報をご確認ください。

まっぷるトラベルガイド編集部は、旅やおでかけが大好きな人間が集まっています。
皆様に旅やおでかけの楽しさ、その土地ならではの魅力をお伝えすることを目標に、スタッフ自らの体験や、旅のプロ・専門家への取材をもとにしたおすすめスポットや旅行プラン、旅行の予備知識など信頼できる情報を発信してまいります!