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フェノロサ来日当時の日本

当時の日本は、明治元(1868)年の神仏分離令により神道以外は価値のない宗教だとする廃仏毀釈運動が起きていました。寺院は建造物や仏像を次々と破壊され、困窮を極めました

興福寺ですら寺領が没収され、120人の僧侶が神官への転職を強いられ、国宝の五重塔は安値で売りに出されるという有り様でした。約8年に及ぶ圧政で、全国10万以上の寺院の半数が取り壊され、貴重な文化財が失われました

フェノロサが始めた文化財調査と法隆寺東院伽藍夢殿の厨子開扉

フェノロサは当時の日本人が西洋文化を「芸術」として崇拝し、浮世絵や屏風、仏像など日本の物の価値を低く見ていることを憂いました。明治13(1880)年に、文部省に掛け合って美術取調委員となり、当時学生だった岡倉天心を通訳として伴い、京都・奈良で文化財調査を始めました。法隆寺東院伽藍夢殿(とういんがらんゆめどの)の厨子(ずし)を開扉(かいひ)させたのは有名なエピソードです。

フェノロサは法隆寺の東院伽藍夢殿からのちに国宝となる秘仏を発見した

法隆寺の日誌によると明治19(1886)年(明治21年の説もあり)、フェノロサは調査員として法隆寺を訪れ、夢殿の厨子を開扉するよう求めました。しかし、僧侶らは「これを開くと災いが起きる」として抵抗

フェノロサらの説得の末厨子を開くと、なかから秘仏、救世(くせ)観音菩薩立像(国宝)が神秘的な笑みをたたえて現れ、その美しさに人々は息をのみました。実に200年ぶりの開扉でした。

フェノロサの文化財保護の講演が奈良国立博物館開設につながった

明治21(1888)年6月には、フェノロサは浄教寺(奈良市)本堂で市民に向けて文化財保護を啓蒙する講演を行いました。そのフェノロサの講演をきっかけに文化財保護への気運が高まり、のちの帝国奈良博物館(現在の奈良国立博物館)開設につながったとされています。

フェノロサによる調査は国宝選別に活用!

明治29(1896)年、古社寺保存会が設立され、翌年6月に古社寺保存法が成立しました。同年12月、価値ある文化財が特別保護建造物・国宝に指定され、維持修理費交付への道筋ができました。フェノロサによる調査はこのときの国宝選別に活用されました。

明治政府の急速な欧化政策の陰で危機に瀕していた、奈良をはじめとする国内の貴重な文化財。これらが守られた陰には、奇しくもお雇い外国人による熱い働きかけがありました。

「 古社寺保存法」第1回指定 奈良県の特別保護建造物・国宝 市町村別件数の内訳

「 古社寺保存法」第1回指定 奈良県の特別保護建造物・国宝 市町村別件数の内訳
「古社寺保存便覧」(明治36年)を元に作成 ※市町村名は現在のもの。

明治30年の第1回選定時には、奈良県内の特別保護建造物は19件、国宝は60件指定されました。奈良市だけで特別保護建造物10件、国宝37件と半数以上を占めています。

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・人々の営みに密接してきた 生駒山がもたらした恩恵とは?
・大和平野を潤す大動脈 吉野川分水は300年越しに完成 ほか

Part.2 奈良を駆ける交通網
・生駒市と東大阪市にまたがる 暗峠の急勾配は法令地オーバー
・営業期間わずか9年間! 大仏鉄道を阻んだ急勾配
・3度の変更の末、駅開業が転がりこんだ!?なぜ、王寺町が鉄道の町になった? ほか

Part.3 奈良で動いた歴史の瞬間
・古墳の密集地帯・奈良盆地 なぜ古墳が造られなくなった?
・大化の改新だけではない! 中大兄皇子が変えた時間の概念
・秀吉が催した5000人規模の大宴会 吉野の花見で笑いをとった伊達政宗 ほか

Part.4 奈良で生まれた産業や文化
・全国で2校の国立女子大学 奈良女子大学設立の背景には岡倉天心
・古くから言い伝えがあった 天川村と手塚治虫作『火の鳥』の関係は?
・実は奈良盆地の気候が肝! 広陵町が靴下生産量日本一の理由 ほか

<コラム>
データで分かる全39市町村 人口、農業・水産業、観光
吉田初三郎が描いた奈良の鳥瞰図
映画・ドラマ・小説…… 奈良県とエンタメ作品

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