1879（明治12）年、伝法（でんぽう）村の栢森貞助（かやもりていすけ）らが手すき和紙の工場「鈎玄社（こうげんしゃ）」を設立。苛性ソーダなど化学薬品を使って和紙を製造しました。家内生産だった和紙造りに工場生産の視点を取り入れ、化学薬品をはじめとする洋紙技術を生かしたことが、富士地区の製紙工場の先駆けとなります。

また1887（明治20）年、芦川万次郎（あしかわまんじろう）らが、今泉の田宿川（たじゅくがわ）の水源地周辺（通称ガマ）に手すき和紙工場を新設。紙すきの技術に長けた職工を抱えて生産ラインを機械化し、生産性の向上を図りました。同時に、田宿川沿いには手すき和紙の伝習所が設けられ、技術者の育成にも力を入れました。

製紙に欠かせない富士山麓の湧水が豊富であること、今泉ガマを中心に原料であるミツマタが手に入る環境であること。多くの手すき和紙工場が立てられ、優れた職人によって安定した価格で紙を生産できること。こうした条件が揃い、今泉のガマを中心に製紙産業が根付いていきます。

1890（明治23）年、豊富な水資源に注目した東京の「富士製紙」が潤井川（うるいがわ）流域の入山瀬に工場を建設。富士市域で初めて洋紙の製造を始めました。

同じタイミングで東海道本線が敷かれ、町と富士製紙が協力して馬車鉄道を開通。鉄道や港、道路など交通の便が発達し、原料や燃料、製品、人を運びやすくなったことも、現在の富士市、富士宮市にたくさんの製紙会社が建設される原動力となります。

1894（明治27）年、富士製紙の技術者だった三木慎一が富士市原田の滝川流域に小工場を設立し、洋紙製造に着手。これを機に洋紙の工場がいくつも富士地域に進出しますが、これが手すき和紙工場にも大きな影響を与えました。和紙生産に洋紙技術を生かして生産性アップに取り組んだのです。

また、機械すき和紙生産の草分け的存在となった原田製紙からは多くの技術者が誕生しました。大正期以降、手すき和紙工場に代わって機械すきの製紙会社がいくつも登場したのも、彼らの技術があったからです。

時代は大きく移り変わり、それに合わせて紙に求められるニーズも多様化しています。現在、静岡県のトイレットペーパー生産量は全国一ですが、この原料にすべて再生紙を使うことで、森林資源の保護という役割も担っています。他にも、細菌を通さず滅菌ガスのみを通す紙、電子レンジに強い紙のほか、紙幣や商品券に使う紙は、偽造防止のため最先端の技術が注がれます。

富士山麓の湧水によって育まれた「紙のまち」には今も、草創期に紙造りに携わった人々の情熱や探求心が受け継がれています。

日本の各県の地形や地質、歴史、文化、産業など多彩な特徴と魅力を、地図を読み解きながら紹介するマップエンターテインメント。静岡の知っているようで知られていない意外な素顔に迫ります。思わず地図を片手に、行って確かめてみたくなる情報を満載！