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平尾台の地形形成の歴史

平尾台の石灰岩(平尾石灰岩層)は同時代の秋吉石灰岩層と対比して古生代石炭紀前期からペルム紀末期(3億4000万年~2億5500万年前)に、海洋の赤道付近で海底火山(海山)上に石灰質生物の殻が堆積してできたと考えられています。

平尾台の形成:中生代白亜紀中頃(約1億年前)

海洋プレートの移動とともに約8500万年かけて数千kmを移動して当時の大陸東部に合体したのち、中生代白亜紀中頃(約1億年前)になると、大量のマグマ(溶けた岩石)の上昇によって平尾台周辺の地表では火山、地下では花崗岩類が形成されて、地下にあった石灰岩はマグマの熱の変成作用によって大理石化しました。

平尾台の北東側では地下数kmの深さでマグマが冷え固まった花崗閃緑岩が石灰岩を取り巻いて分布しています。石灰岩中に入り込んだマグマは固結して板状の岩脈となりました。

平尾台の形成:新生代新第三紀中新世(2000万~1500万年前)

新生代新第三紀中新世(2000万~1500万年前)にはユーラシア大陸東縁でのマグマ活動によって、大陸から日本列島が分離して日本海ができ、平尾台もほぼ現在の位置に移動しました。新第三紀後半(数百万年前)になると北部九州は侵食作用によって平坦な地形が広がります。平尾台も低い丘陵地だったのでしょう。

平尾台の形成:新生代第四紀(259万年前以降)

新生代第四紀(259万年前以降)になると平尾台は段階的に隆起し、現在のカルスト台地を形成しました。

平尾台の特徴とは?

平尾台には様々なカルスト地形が発達して、ほかでは見られない奇妙な岩石景観を生み出しています。

平尾台の特徴①:類まれな岩石景観

石灰岩の表面に浸食された溝であるカレン(ドイツ語)、溝と溝のあいだに残った石灰岩が1~3mの高さで突出したピナクル(英語で針)、これらの密集地がカレンフェルト(ドイツ語)です。
本来石灰岩は目視できない微小な方解石結晶の集まりですが、平尾台ではマグマの熱変成によって結晶が数㎜~数cmに成長するとともに岩石中の炭素が取り去られ、白い結晶質石灰岩(大理石)になりなす。石灰岩中の化石や地層が見えなくなった反面、風化すると結晶境界で剥離するために岩石の表面が丸い形状になり、羊が群がっているようなやさしい石灰岩景観が生まれたのです。

平尾台の特徴②:洞窟分布密度は日本最大級

このようなカルスト地形の最大の特徴は地下水系を作ることです。台地上では割れ目の交点に地下に向かって雨水の流れが集中することでドリーネ(溶食くぼ地)がよく発達します。そのため、地表には河川や谷がほとんどできず、地下を川が流れ洞窟を作ります。石灰岩洞窟には地下水中に溶けていた石灰分が沈殿した洞窟生成物(鍾乳石)がよく発達するので鍾乳洞とも呼ばれています。

平尾台では200以上の洞窟が見つかっており、洞窟分布密度は日本最大級です。長い洞窟には目白洞(2100m)、青龍窟(1785m)、千仏鐘乳洞(1720m)、深い堅穴にはこむそう穴(-91m)、人参窪第1洞(-62m)、牡鹿洞(-50m)などがあり、観光洞として目白洞、千仏鐘乳洞、牡鹿洞が部分的に公開されています。

平尾台の周辺

平尾台の周辺

平尾台にある鍾乳洞のいくつかは実際に見学することができます。また、カルスト台地の成り立ちや鍾乳洞などについて解説・展示した平尾台自然観察センターや、キャンプ場を備えた平尾台自然の郷など見どころも点在しています。花崗閃緑岩地域にある広谷湿原は、福岡県内では数少ない湿地であり、苅田町の天然記念物や環境省の重要湿地に指定されています。

平尾台の特徴③:発達したカルストシステム

地表のカルスト地形と地下の洞窟は地下水系で結ばれた一連のカルストシステムを構成しています。

平尾台にカルストシステムがよく発達する原因として、台地の東部に非石灰岩の尾根があって石灰岩地域に地表水が流れ込むこと、石灰岩中に高角度で板状の火成岩脈が多数分布して未風化状態では不透水層に、風化すると粘土化して含水層となって複雑な地下水系を作ること、九州中南部の火山起源の火山灰と大陸からの黄砂が石灰岩上に降り積もってできた土壌が石灰岩の浸食を促進することなどがあげられます。

平尾台の特徴④:非石灰岩の地下ダムが存在する

平尾台の石灰岩と周囲の非石灰岩との境界に分布する湧水は北西側が標高65~150m、南東側は270~370mで北西側が200m以上低く、また南東側には地下川洞窟がよく発達します。

均質な石灰岩中の地下水は傾斜が大きい方向へ流れて非石灰岩との境界で地表に流出するため、平尾台の地下水は大部分が北西側に向かうことが予想されます。
しかし色素を使った地下水追跡調査によって両側に流出することが判明しました。これにより平尾台中央部に非石灰岩の地下ダムが存在することや、北西側地下水系が南東側に比べて新しく、地下川洞窟が未発達であることが想定されています。

平尾台の特徴⑤:地下水系と気候の境界に位置

平尾台のふもとには石灰岩中の地下水が流れ出す湧泉が十数か所あり、地域のおもな河川である紫川(むらさきがわ)、遠賀川、小波瀬川のそれぞれの源流のひとつとなっています。

紫川と遠賀川は日本海、小波瀬川は瀬戸内海へ注ぐため、平尾台は日本列島の川を日本海と太平洋・瀬戸内海に二分する大分水嶺(だいぶんすいれい)の一部です。大分水嶺に位置するカルスト地域は平尾台だけです。地表河川では分水嶺は尾根を通りますが、地下河川が発達する平尾台では地表地形とは関係なく台地のほぼ中心に地下水系の境界があります。日本海沿岸と瀬戸内海沿岸の気候の境界でもあり、冬に北斜面に季節風が吹きつけて小雪が舞うようなときも、南斜面では晴れて暖かいことが多くあります。

平尾台と山口県秋吉台の違い

平尾台と秋吉台はもともと同じようにできた石灰岩ですが、秋吉台は面積が平尾台の10倍もあり、台地周辺の低地にも石灰岩が分布して石灰岩平野のような河川カルストを形成します。一方、平尾台では石灰岩は台地の中腹より上に分布するため、周囲の環境から孤立した高原カルストとなっています。

谷によって東西2つの台地に分かれる秋吉台では東台を保護地区、西台を採掘地区と分けていますが、平尾台ではひとつの台地の東半分を保護地区、西半分を採掘地区にしています。
微細な結晶の秋吉台の石灰岩は風化すると表面に針のような細かい突起ができて「針の山」「地獄台」と呼ばれ、結晶が大きくなった平尾台の石灰岩(大理石)は丸く浸食されて「羊群原(ようぐんばる)」と呼ばれています。秋吉台の石灰岩は痛くて座れませんが、平尾台の石灰岩は座り心地がよいのです。

秋吉台

住所
山口県美祢市秋芳町秋吉台
交通
中国自動車道美祢ICから国道435号、県道32・241号を秋吉方面へ車で13km
料金
通行無料/エコツアー(5日前までに要予約)=1000円~(コースにより異なる)/

平尾台は世界に類のない小さな真珠のような場所

平尾台は単一のカルスト地域としては世界的には小さいですが、狭い範囲に多様なカルスト地形がよく発達しているため、色々なおかずが詰まった幕の内弁当のような、あるいは箱庭のような日本的なカルスト地域であり、熱変成を受けて純白の大理石に変化した石灰岩の美しさとあわせて、世界に類のない小さな真珠のような愛らしい場所なのです。

平尾台と人との関わり

人との関わりでは平尾台は日本で唯一の人口100万都市圏にあるカルスト地域です。市民の憩いの場であるとともに、北九州工業地帯の発展によって石灰石の採掘が進行しました。
保護か開発かで争われた結果、東側は北九州国定公園ならびに国指定天然記念物に指定され、西側は石灰石鉱区で立ち入り禁止となりました。保護と開発が共存しているように見えますが、地下水系は保護地域から西側へ続いているため、採掘が進むと地下水系を破壊して保護地域にも影響が及ぶ可能性があり、将来に大きな問題が残っています。

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