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御牧が設置され軍馬の最重要地だった信濃国

768(神護景雲2)年、信濃国には「御牧(みまき)(勅旨(ちょくし)牧)」が設置されました。これは朝廷が管理する牧であり、それ以前の国牧も御牧に吸収されていきました。御牧は信濃国を皮切りに、甲斐国(かいのくに)、上野(こうずけ)国、武蔵国と東国に設置され、各国に置かれた牧の数と毎年の貢く馬め数は以下のとおりです。信濃国(16牧・80頭)、甲斐国(3牧・60頭)、上野国(9牧・50頭)、武蔵国(4牧・50頭)。この数字からも信濃国が軍馬の最重要生産地であったことがうかがえます。

信濃国内の御牧の内訳は、伊那郡に3牧(平井手(ひらいで)、笠原、宮処(みやどころ))、諏訪郡に3牧(山鹿(やまが)、塩原(しおはら)、岡屋)、筑摩郡に2牧(埴原(はいばら)、大野)、安曇郡に1牧(猪鹿(いのしか))、高井郡に2牧(大室(おおむろ)、高位)、小県(ちいさがた)郡に1牧(新治(にいはり))、佐久郡に3牧(長倉、塩野、望月)、そして郡不明の萩原牧の合計16牧。中央政府が任命する「牧監(もくげん)」が国ごとに牧を管理・運営していましたが、信濃国だけは例外的に2人(望月牧とその他)の牧監が置かれました。

御牧ヶ原の歴史の始まりは信濃最大規模の御牧「望月牧」

信濃16牧のなかでも最大の規模を誇ったのが、望月牧でした。望月牧は現在の佐久市から東御(とうみ)市、小諸(こもろ)市にまたがる台地上に位置し、面積は約2100ヘクタール。のちに「御牧ヶ原(みまきがはら)」と呼ばれるこの広大な原に馬を放牧し、軍馬として育成したのです。馬が敷地外へと逃げ出してしまわないように周囲にめぐらせた土手や柵、溝などを「野馬除(のまよけ)」といい、総距離は38㎞にも達していたといいます。

平安時代に編さんされた『延喜式』では、信濃国には16の御牧(延喜式御牧)があったとされています。
『長野県の歴史』(山川出版社、2010年)を元に作成。

御牧ヶ原の歴史に名を残す「望月の駒」とは?

望月牧で生産された軍馬は「望月の駒(こま)」と呼ばれ、貴族らに珍重されました。朝廷に馬を献上するのは毎年8月の望月(満月)の頃(8月15日)とされ、諸国から京まで曳かれてきた馬は天皇の御前にて披露され、そのあとで公卿(くぎょう)らに下か賜しされたのちに馬寮(めりょう)・近衛府に分配されました。この宮中行事を「駒牽(こまひき)」といいます。信濃国から京にのぼった望月の駒は、平安時代の歌人・紀貫之(きのつらゆき)によって「逢坂(おうさか)の関の清水に影見えて今やひくらむ望月の駒」と歌われたほど、風物詩となったのです。御牧の制度は時代とともに徐々に廃れていきましたが、信濃国からの駒牽は、応仁の乱(15世紀後半)の頃まで続けられたとの記録が残っています。

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Part.1 地図で読み解く長野の大地

・地形・地質総論「東西から圧縮されている長野」
・伊那山地と南アルプスを縦貫!日本最大の断層・中央構造線
・大地溝帯フォッサマグナとかつて信州が海だった証
・火山活動の歴史を物語る山容 八ヶ岳連峰の南北で大きな違い
・北アルプス唯一の活火山!焼岳の噴火と上高地盆地の形成
・天竜川と断層で形成された伊那谷の日本一の河岸段丘
・野尻湖のナウマンゾウ化石に旧石器人の生活が見える?
・千曲川沿いの段丘上に築かれ、急崖と川が守る上田城のすごさ

などなど長野のダイナミックな自然のポイントを解説。

Part.2 長野を駆け抜ける鉄道網

・高崎~長野の長野新幹線に始まり敦賀への延伸を目指す北陸新幹線
・66.7パーミルの勾配路線だった信越本線碓氷峠とは?
・東京と名古屋を結ぶ大幹線で山岳地帯を駆け抜ける中央本線
・明治期に開通し善光寺平と松本盆地を結ぶ篠ノ井線
・伊那谷やアルプスを望み旧型国電も走った飯田線
・県内最大の路線網を誇った、私鉄・長野電鉄の変遷
・別所温泉に向かう温泉電車、上田電鉄別所線の魅力

などなど長野ならではの鉄道事情を網羅。

Part.3 長野で動いた歴史の瞬間

・縄文遺跡の宝庫・信州は日本一の人口密度だった!?
・信濃の国は有数の馬産地! 都に名を馳せた望月の駒とは?
・弓馬に長けた信濃武士が源氏配下として平氏討伐
・信州の南北戦争と呼ばれる大塔合戦はどうして起きた?
・甲斐武田信玄vs越後の上杉謙信、二大英雄が激戦を演じた川中島
・流転した善光寺の本尊は天下人の元に安置された?
・松本の貞亨騒動や上田の宝暦騒動 信州で百姓一揆が続発したわけ
・松本城が直面した取り壊し危機 救ったのは松本の住民だった!

などなど、激動の長野の歴史に興味を惹きつける。

Part.4 長野で育まれた産業や文化

・江戸時代に整備された用水路 五郎兵衛用水路とは?
・信州の気候風土を生かした寒冷地農業のここがすごい!
・蚕糸王国として栄えた長野県が電気機械工業県に変貌したわけ
・明治期の外国人別荘に始まる軽井沢エリアのリゾート化
・洪水を繰り返してきた暴れ川、千曲川を巡る治水事業の全容
・日本三大奇祭に数えられる、諏訪大社の御柱祭の本質とは!?

などなど長野の発展の歩みをたどる。

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