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小浜鉄道は莫大な労力と費用をかけ開通

鉄道を敷くのは、崖沿いの岩場である約8㎞の区間に3か所のトンネルを掘る必要があり、5か所の切り通しも点在している場所でした。現在のように大型掘削機などがない時代のため、ダイナマイトとトロッコ以外の道具は、ツルハシとノミ。ひたすら人力に頼る難工事でした。

その結果、工事に関わった労働者は延べ約20万人。5年半の歳月と約75万円(現在の貨幣価値で約40億円)を費やしてようやく完成し、昭和2(1927)年に千々石駅〜肥前小浜駅が開通しました。

小浜鉄道はわずか11年で廃業となる

しかし、開通はしたものの、当時すでにバス路線が地域に普及していました。しかも、愛野村駅〜肥前小浜駅の電車賃が80銭ほどであったのに対して、同区間のバス運賃は70銭と割安。さらに、資金不足から鉄道を温泉中心街の2㎞手前までしか敷けなかったのも、不人気を買う原因となったのです。

赤字経営となった温泉鉄道と小浜鉄道の2社は、昭和8(1933)年に合併し「雲仙鉄道」となるも、経営不振からは脱却できず、昭和13(1938)年ついに廃業。難工事を乗り越えての小浜鉄道の開通からわずか11年でその役割を終えることとなりました。

小浜鉄道に残る鉄道遺構

鉄道路線としてはじつにはかない生涯でしたが、小浜鉄道が長崎県における交通発達の歴史に名を刻んだのはたしかであり、今でも沿線に鉄道遺構が残っています。

約30mのホーム跡が残る木津の浜駅跡を千々石方面へ進んだところで見えてくるのは、車が1台通れるほどの幅の狭いトンネル。これが2つ続きます。「千々石第2・第1トンネル」です。石積みの馬蹄形トンネルは、鉄道があった頃の雰囲気を残していて、見るからに趣深いです。

木津の浜駅跡の南側にある切り通しは、両側から樹木が生い茂っていて木漏れ日が美しく、「緑のトンネル」と呼ばれています。長い年月をかけて切り開いた鉄道敷設の大変さがよく表れている場所です。

鉄道の終着駅である肥前小浜駅跡にも、当時のホーム跡が残っています。当時、旅行客はここから温泉旅館街までバスで移動していました。またここでは、千々石駅、木津の浜駅、富津駅の跡と同様に、当時の駅名表示板を模したと思われる石碑を見ることができます。書かれている駅名はどこか、皆に慕われた先人の墓碑銘のようにさえ感じられます。

小浜鉄道は鉄道ファンの心に強く残る路線

小浜鉄道の遺構は、2007年に経済産業省の近代化産業遺産に認定されました。線路跡の道路は、地元では「汽車みち」として親しまれています。

往時を偲ばせる数々の遺構は、切り立った崖から臨める橘湾の景観とともに、地域の人々、そして訪れる鉄道ファンの心に、いつまでも遺ることでしょう。

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