北条氏は源氏将軍の時代から幕府内で有力御家人として台頭し、次々と政敵を排除し執権政治を確立していました。とはいえ、北条氏はもともと伊豆を拠点とした小豪族であったことから、ほかの有力御家人を従えるほどの威光は有していませんでした。

そこで執権北条氏は、摂関家や皇族から４代目以降の征夷大将軍を迎え入れました。名目上の将軍には由緒ある血筋の者を立て、ほかの有力御家人の不満を封じ込め、幕府の実権は執権北条氏が握っていたのです。

権力が源氏将軍から執権北条氏へと移行する過程で、鎌倉幕府の所在地は大倉から宇都宮辻子(うつのみやずし）、さらには若宮大路（わかみやおおじ) へと移転していきました。

こうした執権北条氏の独裁政治は、やがて反発を招くようになります。後醍醐天皇による討幕運動が始まると、有力御家人の足利尊氏（あしかがたかうじ）が幕府を離れ、1333年には新田義貞（にったよしさだ）が若宮大路の御所を攻撃し、鎌倉幕府は滅びます。

そして室町幕府が京に開かれると、政治の中心は再び西国に移り、以降、関東の統治は鎌倉公方（かまくらくぼう）と関東管領（かんとうかんれい）に委ねられました。

鎌倉公方とは、室町幕府が設置した鎌倉府の長官です。

公方は関東の10カ国（相模、武蔵、安房（あわ）、上総（かずさ）、下総（しもうさ）、常陸（ひたち）、上野（こうずけ）、下野（しもつけ）、伊豆、甲斐（かい））を統治し、その権力の大きさから独立心が強く、室町幕府に対立的でした。

４代鎌倉公方・足利持氏（もちうじ）は、幕府から攻撃され、下総国古河（しもうさのくにこが）（茨城県古河市）へと逃亡。以降は古河公方を名乗るようになりました。鎌倉府の権威が失墜すると、関東では覇権争いが繰り広げられていきます。

そうした混迷期に頭角を現したのが、伊勢盛時（いせもりとき）（北条早雲（ほうじょうそううん））でした。盛時は関東管領の家臣から小田原城を奪取し、盛時を祖とする後北条氏（ごほうじょうし）は関東へと進出していきました。

後北条氏の支配領域は、群馬県から栃木県にかけてのあたりを北限として、東は千葉県まで広がりました。その過程で神奈川県域は早くから後北条氏の支配を受け、本拠地である小田原の支城や衛星都市として発展していきました。

鎌倉時代の執権北条氏と戦国時代の後北条氏は血縁的なつながりはありませんが、中世の神奈川県域は、ふたつの北条氏によって経営されたのです。

西日本を統一した豊臣秀吉に対し、当初、後北条氏は恭順の意を示していました。しかし、上野で真田家との領土争いが起きると、これが秀吉の惣無事令（そうぶじれい）（私戦の禁止）に背いたとみなされ小田原征伐が始まります。

そして、後北条氏は秀吉に降伏し滅亡。神奈川県域をはじめとする後北条氏の領土は、徳川家康の支配を受けるのでした。

日本の各県の地形や地質、歴史、文化、産業など多彩な特徴と魅力を、地図を読み解きながら紹介するマップエンターテインメント。
第1弾は神奈川県の知っているようで知られていない意外な素顔に迫ります。思わず地図を片手に、行って確かめてみたくなる情報を満載！