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初代福浦トンネルは危険な陸路を回避するためにつくられた

初代の福浦トンネルは明治初頭、1870年代に造られたといわれています。トンネルがある「黒滝岩」は海に面した高さ約50m、南北約150mに延びる屏風状の絶壁です。この辺りの山々には約600万年前に激しい噴火を起こした火山活動の跡が残っています。

明治初期まで、福浦地区から重栖(おもす)漁港方面へ行くには天候が良ければ舟が使えますが、陸路では徒歩で黒滝岩中腹の険しい峠道を越えて行くか、磯伝いに迂回するしか方法がありませんでした。冬の季節風を正面から受ける場所で、風による潮の飛沫で視界も足場も悪く落石や転落の危険と隣り合わせだったため、ときには遭難者も出たといいます。

初代福浦トンネルは地元住民が手掘りでくり抜いてつくられた

少しでも安全に通ることができるように地元住民がノミとハンマーを使い手掘りでくり抜いて造ったのが、初代福浦トンネルです。福浦トンネル直上の山は火山の火口のひとつで、噴火の際に流れ出た火砕流が地表部を覆い、粗面岩質火山礫凝灰岩(そめんがんしつかざんれきぎょうかいがん)という比較的軟らかい火砕流堆積物が地表から厚さ10m以上ありました。そのため人力で掘ることができたのです。

初代福浦トンネルは腰をかがめて通る「細トンネル」

初代福浦トンネルは通称「細(こま)トンネル」と呼ばれています。海面から高さ2〜3mの磯傍に沿って、途中に数十メートル隔てて大小に分かれています。大は高さ約1.6m×幅1.3m×長さ7.5m、小は約1.6m×1.8m×4.2mで、腰をかがめて通れるほどの大きさですが、当時の移動手段は徒歩が中心だったため、それで十分だったのです。トンネル内部壁面には火砕流堆積物が観察でき、ノミ跡が残っています。

二代目福浦トンネルは馬や荷車が通れる「窓トンネル」

やがて徒歩移動から牛や馬に荷車を引かせる時代に移ると、初代福浦トンネルでは狭くて通れなくなってしまいます。そこで1898年に二代目福浦トンネル、通称「窓トンネル」が掘られました

広島県出身の石工・高井甚三郎が掘削にあたりました。高さ3.8m、幅4m、長さ121.7mでカーブもあり難工事だったといわれています。一部にはダイナマイトも使われました。(内装・巻立・照明はなく、明かり採りの「窓」と呼ばれる開口部が2か所あります)二代目福浦トンネルの開通で荷車を引いて通れるようになり、住民は遭難の危険なしに安心して行き来できるようになったのです。

新福浦トンネルは県道としてルートを変えて開通

自家用車の時代になると、二代目福浦トンネルの幅も足りなくなり、重機による拡幅が行なわれました。そのため二代目福浦トンネルは重機による削り跡と人力のノミの跡が両方見られます。その後、1988年に県道44号西郷都万五箇(さいごうつまごか)線の新ルートとして、現在も使われている「新福浦トンネル」が開通し、初代福浦トンネル・二代目福浦トンネルはその使命を終えました。

2005年、時代を追った人々の営みと土木技術の推移を関連付けて見られる貴重な場所として土木学会から選奨土木遺産に選定されています。

福浦トンネルの周辺

福浦トンネルの周辺

黒滝岩周辺は等高線の間隔が狭く、急峻な地形を物語っています。福浦トンネルは隠岐ユネスコ世界ジオパークの見どころの一つで、湾内にはローソク島遊覧船の乗り場もあります。

2021年現在、初代福浦トンネルも二代目福浦トンネルも落石の危険があるので内部見学不可。外から入り口のみ見ることができます。

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Part.1 地図で読み解く島根の大地

・「弁当忘れても傘忘れるな」な島根の天気
・山陰地方と呼ばれるのは島根県と鳥取だけ?
・水質の良い一級河川「高津川」と大井谷の棚田
・隠岐諸島の「レッドクリフ」をはじめとする島々
・三県境と全国5番目に広い湖「中海」と7番目の「宍道湖」
・全盛期は東アジア最大、世界で2位の産銀量「石見銀山」は港まで続いていた?
・東京ドームほどの海浜公園「石見畳ヶ浦」

ほか

Part.2 島根を駆ける充実の交通網

・「銀の道」さらに「うなぎ街道」「鯖街道」とは?
・朝廷への情報伝達に使われた「官道」とは?
・土木学会が指定した土木遺産「福浦トンネル」
・一畑電鉄と一畑駅、大社線と大社駅
・Mランドドライビングスクールとは?
・JR木次線の「三段式スイッチバック」とは?
・島根の旧三江線トロッコ、初めて県境越え広島へ
・奥出雲おろちループ
・古代山陰道
・「ベタ踏み坂」江島大橋
・未成線広浜鉄道
・神にまつわる名前のついた10の駅
・最後の寝台列車サンライズ出雲

ほか

Part.3 島根の歴史を深読み!

・『日本書紀』『古事記』から神々を知ろう
・古墳も多い島根県
・『出雲国風土記』の世界「黄泉の穴」
・出雲大社を筆頭とする様々な「神社」
・「出雲」「石見」「隠岐」から「島根に」
・山陰のモンサンミッシェル?こと宮ケ島 衣毘須神社
・出雲の方言 東北の訛りとの共通点
・なぜ津和野町に「森鴎外記念館」が?「小京都」と呼ばれるわけ
・歴史的大打撃「廃仏毀釈」で失われたモノ
・島流しといえば「隠岐」?
・江戸時代の島根県、松江藩による出雲平野の開拓

ほか

Part.4 島根で育まれた産業や文化

・「相撲」発祥の地と言われる出雲
・名湯の多い島根県
・継承される多くの神楽と安来節
・歌舞伎の原型になったとされる「阿国歌舞伎」
・「玉鋼」と「たたら製鉄」と黒曜石
・日本で唯一「黄長石霞石玄武岩」を産出
・小泉八雲の作品と小泉邸

ほか

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