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【遣唐使の従来説】遣唐使は主に唐の政治や文化を学ぶ、留学生である

遣唐使のなかに、正体がはっきりしない人物がひとりいます。

井真成(いのまなり)です。井真成の存在がとり沙汰されるようになったのは、2004(平成16)年のことでした。中国・西安で発見された8世紀の墓誌(ぼし)に、その名が刻まれていたのです。墓誌によると、井真成は唐で勉学に励み、役人となったが、734年に36歳で亡くなっています。彼の死を悼んだ唐の皇帝は、「尚衣奉御(しょういほうぎょ)」の官職を贈って弔(とむら)ったといいます。だが、井真成に関する記録はこの墓誌のみ。中国だけでなく日本の史料にもまったく登場しないのです。

墓誌の内容から、井真成は717年(第9次遣唐使)に19歳で唐に渡った留学生だと考えられました。同じ遣唐使船には、帰国時の船が難破して日本に戻れず、唐に残ってそのまま没した阿倍仲麻呂(あべのなかまろ)らが乗っていました。

 

【遣唐使の新発見】遣唐使船の随員として唐に渡った井真成は、役人かもしれない

しかし中国の学者は、井真成について死の前年の733年に遣唐使船の随員として唐に渡った役人だと主張しています。留学生には9年以上の滞在が認められていなかったことや、皇帝が単なる留学生に「尚衣奉御」を与えることはないといったことが理由だといいます。

また、日本側では「井」という姓は入唐時に改名したもので、大阪の藤井寺を本拠にしていた渡来系氏族の葛井(ふじい)氏、あるいは井上(いのへ)氏の出身ではないかともいわれています。井真成は若き留学生だったのか、それとも官僚だったのか。出自も含めて真相の解明が待たれます。

墓誌には何が書かれていたのか?

贈尚衣奉御井公墓誌文并序
公姓井字眞成國號日本才稱天縱故能
□命遠邦馳騁上國蹈禮樂襲衣冠束帶
□朝難與儔矣豈圖強學不倦聞道未終
□遇移舟隙逢奔駟以開元廿二年正月
□日乃終于官弟春秋卅   六皇上
□傷追崇有典詔贈尚衣奉御葬令官
□卽以其年二月四日窆于萬年縣滻水
□原禮也嗚呼素車曉引丹旐行哀嗟遠
□兮頽暮日指窮郊兮悲夜臺其辭曰
□乃天常哀茲遠方形旣埋于異土魂庶歸於故郷

贈尚衣奉御井公墓誌の文。序を并せたり。公、姓は井、字は真成。国は日本と号し、才は天の縦せるに称う。故に能く命は遠邦に□、上国に馳せ聘えり。礼楽を蹈みて衣冠を襲う。束帯して朝□、与に儔うこと難し。豈図らんや、学に強めて倦まず、道を聞くこと未だ終らざるに、□移舟に遇い、隙、奔駟に逢わんとは。開元二十二年正月□日、乃ち官弟に終わる。春秋三十六。皇上、□く傷みて、追崇するに典有り。詔して尚衣奉御を贈り、葬は官を令て□せしむ。即ち其の年二月四日を以て、萬年縣の滻水の□原に窆る。礼なり。嗚呼、素車、曉に引き、丹旐、哀を行う。遠□を嗟きて暮日に頽れ、窮郊に指きて夜台に悲しむ。其の辞に曰く、□は乃ち天常、哀きは茲れ遠方なること。形は既に異土に埋もれ、魂は故郷に帰らんことを庶うと。

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淡路島の銅鐸、蘇我氏や大王家の古墳など21世紀に入ってからも新発見が相次ぎ、注目を集め続ける日本の古代史。その歴史を解くカギは限られた文献と、神話と出土品のみであるため、未だ解明されない謎が多いのです。
そもそも日本人がどのように生まれたのか、天皇家がどのように誕生したのかも判然としません。

こうした古代史を読み解く上で、もうひとつ重要な鍵となるのが地図。日本人の成り立ちも、縄文人の生活も、地図を読み解くことによって明らかとなります。さらには日本最初の都が飛鳥に生まれた理由や京都盆地が都建設地に選ばれた理由も当時の豪族の勢力圏から浮き彫りに。古代史のトピックを解説しながら、これらにまつわる謎を地図によって読み解きます。

第1章 縄文・弥生時代

【縄文・弥生時代の流れ】 大陸から日本へやってきた人々がクニをつくり各地で戦争を繰り広げる
【日本への長い道】 何のために、どんなルートを通り、日本へたどり着いたのか?
【縄文人の生活】 高度な技術で多様な道具をつくり、危険をおかして遠距離を移動!
【戦争のはじまり】 中国の史書が記す「倭国大乱」はいったいどこで起こったのか?

~クローズアップ古代史~
稲作がはじまったのは弥生時代ではなく、縄文時代だった!
曹操の墓で発見された鉄鏡が邪馬台国の九州説の裏づけになる?

第2章 古墳時代

【古墳時代の流れ】 ヤマト政権による統一が進むとともに各地に築造されていく巨大な前方後円墳
【倭の五王】 中国に使者を送り続けた5人の王 彼らの正体を明らかにする
【巨大古墳の登場】 前方後円墳はヤマト政権のシンボル それが全国につくられた意味とは?

~クローズアップ古代史~
日本最大の前方後円墳は仁徳天皇の陵墓でない!

第3章 飛鳥時代

【飛鳥時代の流れ】 朝鮮半島から日本へ仏教が伝わり、中大兄皇子のクーデターで大化改新が実現
【崇仏論争】 仏教を受け入れるか拒絶するか……激化する蘇我氏と物部氏の争い
【大化改新】 天皇中心の中央集権体制を目指し、新政権がいよいよスタートを切る
【天武天皇の政治】 律令体制が次第に整い、日本がようやく「国」になった!

~クローズアップ古代史~
聖徳太子が建立した法隆寺の現在の建物は再建されたもの?
大化改新は虚構ではなく、確かに大きな改革が行われていた!

第4章 奈良時代

【奈良時代の流れ】 政争や疫病などの社会不安が相次ぐなか、平城京に律令体制の中央集権国家が完成!
【遣唐使派遣】 命の危険をおかして中国に渡った留学生たちが唐で得たものとは?
【聖武天皇と鎮護国家】 仏教で社会不安を鎮めようとした聖武天皇の篤き願い
【平安京遷都】 長岡京の建設中に決まった平安遷都 なぜ桓武天皇は心変わりしたのか?

~クローズアップ古代史~
平城京では「破斯清通」という名のペルシア人が働いていた!?
奈良時代の人々も知恵を絞ってさまざまな疫病対策を試みていた!

[監修者] 瀧音能之(たきおとよしゆき)

1953年北海道生まれ。早稲田大学第一文学部日本史学科卒、博士(文学・早稲田大学)。
現在、駒澤大学教授。日本古代史、特に『風土記』を基本史料とした地域史の研究を進めている。主な著書に『風土記と古代の神々』(平凡社)、『古代日本の実像をひもとく出雲の謎大全』(青春出版社)、『出雲大社の謎』(朝日新聞出版社)などがある。

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