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広島針の生産を可能にした技術力

家内制手工業として発達した針作りでしたが、明治時代になると良質で安価なメリケン針(洋針)が輸入されるようになります。これに対応するため、京都府に京都製針所が起業しましたが上手くいかず、数年で廃業。そして1896(明治29)年、中田製針所の中田和一郎が京都製針所から製針機械を導入し、広島でメリケン針の製造を開始したのです。

1900(明治33)年には、ドイツから電力を利用した動力式機械製針機を購入しましたが、ドイツ製の機械が、そのまますぐに活用できるわけではありません。動力や機械の調整は、非常に困難でした。

これを可能にしたのが、広島の技術力です。当時、三篠・楠木・大芝地区は、鉄工所、機械工作所、製針所、ゴム工場などが集まる広島市郊外のメイン工業地帯でした。鉄工所や機械工作所で働く技術者の協力により、ドイツ製の機械を広島でも使いやすいようにカスタマイズ。知恵を出し合って、加工技術を開発したと伝えられています。

広島針は戦争によって数奇な運命をたどる

1914(大正3)年に第一次世界大戦が勃発すると、日本に針特需が訪れました。この当時はヨーロッパ産の針がアジア市場に流通していましたが、戦争勃発により輸出がストップ。針の注文が日本に殺到したのです。

この需要に対応できたのが、他産地に先駆けて針作りを機械化していた広島でした。中国に近いという地理的優位性も加わり、注文が殺到。ピーク時の1918(大正7)年には製針工場が200社を超え、アジア市場の8割を広島産の針が支えていたといわれます。

第一次世界大戦終結後の戦後恐慌により企業淘汰が進みますが、各社は生き残りをかけて品質向上・品質管理を徹底。生産量は徐々に回復していきました。

しかし第二次世界大戦が始まると、材料の鉄線が配給制となり、強制企業合同によって針製造業者の数は7社に減少しました。しかも1945(昭和20)年8月6日、広島市に原爆が投下されます。爆心地から近距離に密集していた製針工場は、そのほとんどが壊滅したのです。

広島針は戦後にブランドとして定着

戦後、広島の針産業はいち早く復興を遂げます。終戦後2~3年程度で工場や経営基盤を再生し、針製造を始めたのです。その後、品質向上や技術向上により、広島針はブランドとして定着していきました。

広島針は県のブランドとして生き続ける

現在、手縫い針・かぎ針・待針の90%以上は、広島で生産しています。輸出も盛んに行われていますが、針の全体需要は低迷中です。先進国は針の需要が少ないですし、発展途上国は品質より低価格の針を好む傾向にあります。イギリス・ドイツといったヨーロッパでも針を輸出していますが、近年は特に価格の安い中国産の針がシェアを伸ばしています。

縫針のさらなる需要拡大は困難なため、広島県針工業協同組合は「広島針」の地域団体商標を取得してブランド化。広島県内の製針会社では、針作りの技術を生かして新たな加工分野に挑戦しています。

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宮島の紅葉谷は人工的に造られたものだった!
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Part.2:広島を駆ける充実の交通網
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<コラム>
データで分かる全23市町 人口、観光、農業・漁業
絵図と写真で見る広島の鉄道
絵図で見る広島の城下町
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