干拓による新田開発は江戸時代を通して行われ、岡山平野はどんどん広がっていきます。明治時代には大阪の豪商・藤田伝三郎（ふじたでんざぶろう）が民営の大規模干拓を実施し、藤田1・2・3・5区が誕生。戦後は農林省（現在の農林水産省）が事業を引き継ぎ、6区と7区が完成しました（4区と8区は計画されますが、着工されませんでした）。干拓の主な目的は、新田開発です。水稲栽培には大量の水が必要なのですが、明治時代以降の干拓地では営農に必要な水を、川の水や雨水に頼るしかありませんでした。干拓が進んで農地が増えるにつれ、慢性的な水不足や塩害に悩まされることになります。また干拓地ということもあり、高潮による浸水被害も深刻でした。

児島湾干拓地の二条麦（ビール麦）畑。干拓地では、米・麦・ナス・レタス・タマネギ・レンコンなどが栽培されています。

水不足・塩害・高潮による被害を解決するために実施されたのが、「国営児島湾沿岸農業水利事業」です。これは、児島湾に締切堤防を設置して湾の一部を淡水化し、農業用水として利用しようというものです。
締切堤防は1950（昭和25）年に着工され、1959（昭和34）年に完工。児島湾の奥に、児島湖が誕生しました。児島湖には、二級河川である笹ヶ瀬川（ささがせがわ）・倉敷川（くらしきがわ）・鴨川（かもがわ）などが流入しています。築堤により海水が入らないようにし、川の水が流れ込んで水位が上がったら、潮位が低いときに排水…という作業を繰り返して塩分濃度を下げ、徐々に淡水化していったのです。こうして誕生した児島湖は、面積10.88㎢・総貯水量2607万㎥。ダム湖を除いた人工湖としてはオランダのアイセル湖に次ぐ広さで、誕生当時は日本で最大の人工湖でした。1558mの堰堤に設けられた締切堤防の管理用道路は、自動車道として一般開放されました。かつては片道130円（普通自動車）でしたが利用者の要望を受けて、1974（昭和49）年に無料化。現在でも児島半島と岡山を結ぶ生活道路として利用されています。

1975（昭和50）年ごろから、児島湖の水質悪化が問題となってきました。児島湖の流域には岡山県人口の約35％が居住しており、生活排水が最大の汚濁原因です。このため岡山県では、1978（昭和53）年ごろから下水処理施設の建設と下水道整備に着手。この事業は現在も進行中で、平成30年度末時点での普及率は73％となっています。下水道整備をはじめとした生活排水対策、湖底の浚渫（しゅんせつ）、農地対策などにより、一時期はCOD（化学的酸素要求量）の値は11～12mg/ℓでしたが、現在では7～8mg/ℓまで改善しています。

水質汚濁に関心が向けられがちな児島湖ですが、生き物の宝庫として重要である点にも注目。児島湖には絶滅危惧種を含む多くの希少淡水魚が生息し、冬季には約2万羽が集まる瀬戸内海地域最大のカモの越冬地でもあります。よく晴れた穏やかな日中は、青い湖面がキラキラと光り、夕方には落日が湖面を赤く染め、見る人の心を癒やす存在となります。また2007（平成19）年から民間団体による河津桜の植樹活動が行われ、3月には約6000本（2020年12月現在）もの美しい桜並木を見ることができます。

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