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播州葡萄園に学んだ岡山のブドウ栽培

播州葡萄園の園長は、当時の農水省農業試験場(現在の新宿御苑)でイチゴやオリーブなどの新規農産物の生産など全般に携わった福羽逸人(ふくばはやと)でした。既にブドウ栽培を行っていた岡山の農家は、播州葡萄園に通い、福羽から栽培や温室設計などを学びます。その中で1886(明治19)年にアレキの枝を譲り受け御津郡野谷村(現在の岡山市北区栢谷)の既存樹に接ぎ、ここに岡山県の温室ブドウ栽培が始まったのです。
北海道のブドウ園では寒さに耐えきれず、播州葡萄園でも台風などの被害により壊滅。しかし、岡山に導入されたアレキのガラス温室では生き残りました。これは、「晴れの国」と呼ばれるほど雨が少なく、何より台風や大雪など災害も少ない風土によるものでしょう。「日中は日当りが良く、夜は冷える」という岡山県の気象は、果樹が育つのに適していました。収穫されたアレキは岡山市内の高級旅館に持ち込まれ、高値で買い取られます。「ブドウを栽培すると、高く売れる」という実積は、ブドウ栽培が産業として定着する大きな足掛かりとなり、岡山市や倉敷市(くらしきし)の沿岸部が産地として成長しました。

岡山のブドウ栽培の特徴

岡山では、ブドウの房が一列にずらりと並ぶ「短梢(たんしょう)せん定栽培」と呼ばれる方式を採用しています。従来、雨に弱いブドウを守るためには、ブドウ畑全面を覆う施設が必要でした。しかしこの方式はブドウがなる部分にだけ列状にビニールなどで屋根を作れば良いため、大幅にコストが抑えられます。新規就農者にとって技術的にも資金的にも取り組みやすいこの方法は、ブドウの栽培面積を広げるきっかけとなったのです。

岡山のブドウ栽培で画期的だった「種無しピオーネ」

岡山県では、ブドウに関する技術開発も盛んに行われました。特に画期的だったのが、ピオーネの種無し栽培です。1978(昭和53)年から4年がかりで開発し、全国に先駆けて種無し栽培の技術を確立しました。種無しをアピールするため「ニューピオーネ」と命名し、全国にPR。同時に、岡山県内での生産振興を開始しました。この当時、岡山県内のブドウ栽培地は県南部が中心で、県北部ではタバコ栽培が盛んでした。1980年代に入ると、タバコ需要が低迷。タバコ農家にとって、種無しピオーネ栽培技術の確立は転作のよいきっかけとなったのです。当時は「県北では気候が冷涼すぎて、ブドウ栽培は不可能なのでは」といわれていましたが、試行錯誤の結果、栽培に成功。ブドウ栽培は県北にまで広がりました。

岡山のブドウ栽培のおもな品種

岡山県内で、最も栽培面積が広いのがピオーネです。岡山県のピオーネ栽培面積は日本1位で、高梁市(たかはしし)をはじめとする県全域で栽培されています。2番目に栽培面積が広いのがシャインマスカットで、全国4位。岡山市や吉備中央町などが主な生産地で、近年は全国的に栽培が広がっていますが、岡山県産は「晴王(はれおう)」として国内外から絶大な評価を受けています。3番目に栽培面積の広いアレキは、全国生産量のほぼ100%を誇る歴史ある品種。大粒で美しいエメラルドグリーンの果実には、岡山県で生まれたブドウ栽培の技術と歴史が詰まっています。

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Part.1 地図で読み解く岡山の大地

・瀬戸内海はどうやってできた?岡山県の成り立ち
・美作はなぜ西日本有数の温泉地なのか
・岡山県指定天然記念物井倉洞はどうやってできた?
・山から貝の化石がとれる不思議
・その大きさは世界2位! 児島湖はなぜ造られたのか?
・「晴れの国岡山」は「天文王国おかやま」だった!
・笠岡市がカブトガニ有数の生息地になった理由

…などなど岡山のダイナミックな自然のポイントを解説。

Part.2 岡山を走る充実の交通網

・瀬戸大橋が鉄道と併用できた理由
・西日本唯一の臨海鉄道線「水島臨海鉄道」の変遷を知る
・わずか16年で廃線になった、幻の三蟠鉄道
・津山扇形機関車庫から見る、岡山県の鉄道の歴史
・山陽新幹線は岡山発が多い?交通の要所・岡山駅のスゴさ
・日本で最も短い路面電車が地元で愛される理由

…などなど岡山ならではの鉄道事情を網羅。

Part.3 岡山で動いた歴史の瞬間

・伝説の城「鬼ノ城」は古代日本の防衛ラインだった
・巨大古墳群からひもとく吉備国と大和朝廷の関係
・戦国大名・宇喜多直家は、邑久郡の小領主だった
・難攻不落の備中高松城を、血を流さずに攻め落とせ!
・宇喜多秀家が基礎を築き池田家が整備した城下町
・岡山藩藩主の憩いの場として築かれた大庭園・後楽園

…などなど、激動の岡山の歴史に興味を惹きつける。

Part.4 岡山で生まれた産業や文化

・古墳時代から受け継がれる備前焼
・岡山県の名産品・白桃は、なぜこんなにおいしいのか?
・蒜山原野の開拓とジャージー牛導入の歴史
・養蚕・イグサ・綿・デニム…。岡山が誇る繊維業
・瀬戸内工業地域・水島コンビナートの誕生秘話
・倉敷市が一大観光地に成長した理由
・刀工集団・長船派は、どのようにして生まれたのか

…などなど岡山の発展の歩みをたどる。

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