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福島で養蚕が発展した江戸時代

江戸時代に幕府が中国からの生糸輸入を制限したことで、国内の養蚕業が活気づきます。 信達地方は蚕種(さんしゅ)(蚕の卵)の品種改良や飼育技術改善を先導。品質は向上し、信達地方の生糸は京都に売り出される「登せ糸」として京都西陣織物にも使用されました。

伊達郡では生糸取引に特化した市が開かれ、全国から商人が集まり賑わいました。なかでも天王市では、1日で1万5000両あまりの現金が動いたといいます。これは、福島藩の1年間の税収に相当する額でした。

養蚕業の発展に寄与した「蚕当計」

養蚕業の発展にひと役買ったのが「蚕当計(さんとうけい)」です。蚕当計とは、蚕室(さんしつ)の温度管理に用いる温度計のこと。

1840(天保11)年頃、伊達郡梁川村で蚕種業を営んでいた中村善右衛門が、二本松の蘭方医・稲沢宗庵の診察を受けた際に、日本ではまだめずらしかった水銀体温計を見て考案。

それまで経験と勘を頼りに行っていた蚕室の温度管理をマニュアル化し、全国へ普及させました。蚕室内の温度を人工的に上げて飼育期間を短縮する「温暖育」も容易になり、生糸の品質と生産効率は飛躍的に上がりました。

福島は生糸取引の重要地だった

横浜港が開港して生糸の輸出が本格化すると、生糸の大量生産が始まります。生糸は福島町(現・福島市)に集めてから横浜に送られました。

生糸取引のための金融機関の必要性が高まり、第六国立銀行、第百七国立銀行、福島銀行など、福島町には多くの銀行が創設されました。東北地方初の日本銀行出張所が福島町に設置されたことからも、当時の福島が商業上いかに重要であったかがわかります。

福島町に設立された共同生糸荷造り所

また、信達地方では各農家が手作業で行う座繰(ざぐり)製糸の質が高く、明治以降もしばらく座繰の時代が続きます。

しかし、座繰で紡ぐ糸は不揃いだったため、長さや細さを揃えて荷造りをする共同生糸荷造所が生糸問屋によって福島町に設立されました。

福島の養蚕にまつわる伝説

養蚕の盛んな地域では、蚕の天敵であるネズミやアリを食べてくれる動物が神聖視されました。信夫山にある西坂稲荷神社には、こんな伝説があります。

昔、人を化かすのが好きな「御坊狐(ごぼうきつね)」というキツネがいましたが、ずる賢いキツネに騙されて尻尾と神通力を失ってしまいます。改心した御坊狐はネズミ退治をするようになり、養蚕の守り神として大切に祀られました。

また、丸子の蟻よけ地蔵は、地蔵堂の石で蚕室の床を叩くとアリが逃げるとして信仰されました。

福島の養蚕業の衰退とくだもの栽培への転換

昭和に入ると、世界恐慌や化学繊維の普及により転機が訪れます。生糸の需要低下にともない、桑畑も別の作物への転換を迫られました。そこで選ばれたのがくだものです。

くだものには暖地性と寒地性のものがあり、夏暑く冬寒い信達地域では、その両方を栽培することができました。土壌との相性によって桃・梨・リンゴなどが栽培され、福島県は農業生産額の半分以上を果実類が占める「くだもの王国」へと変貌していきました。

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Part.1:地図で読み解く福島の大地

・阿武隈山地や奥羽山脈が境目!浜通り・中通り・会津の3地域
・いわきで発掘された首長竜化石フタバスズキリュウとは?
・福島市がぽっかり入る福島盆地はどうやってできた?
・福島発展の礎を築いた常磐炭田
・磐梯山の大噴火と裏磐梯・五色沼湖群の形成
・猪苗代湖畔からウニ化石!?劇的な会津の地形の成り立ち
・石川町が日本三大産地のひとつ ペグマタイトとはどんな岩石?
・大改修から100年が経過 暴れ川・阿武隈川の今と昔

などなど福島のダイナミックな自然のポイントを解説。

Part.2:福島を駆け抜ける鉄道網

・東北本線旧線の黒磯~白河間には明治時代の面影が残されている!?
・日本最大のC62形SL牽引「ゆうづる」が走った常磐線
・かつては東京と新潟を結ぶ架け橋、会津地方の大幹線・磐越西線
・東京・浅草から特急が直通しトロッコ列車も走る会津鉄道
・かつて硫黄輸送で活躍した猪苗代町の沼尻鉄道とは?
・只見川に架かる数々の鉄橋ほか 魅力いっぱい絶景鉄道・只見線

などなど福島ならではの鉄道事情を網羅。

Part.3:福島で動いた歴史の瞬間

・人間の歯や骨をペンダントに!?原始福島の不思議な弔い
・東北地方最古の前方後円墳!会津大塚山古墳が示す会津の力
・浜通りに古代製鉄遺跡を発見! なぜ大規模な製鉄が行われた?
・中世史総論(関東武士が進出し国盗り合戦!白河・伊達・蘆名・岩城氏の攻防)
・南北朝時代に南朝が拠点とした幻の寺院城郭・霊山寺とは?
・伊達氏のルーツは福島にあり!奥州制覇を果たす道のり
・相馬地方を約700年統治した古豪・相馬氏とはどんな一族?
・奥州きっての城下町・若松はどのようにして生まれた?
・会津若松城で籠城戦を続けた会津藩が開城に至るまで

などなど、激動の福島の歴史に興味を惹きつける。

Part.4:福島で育まれた産業や文化

・最澄と大論戦した僧・徳一が開祖!慧日寺から始まった会津の仏教文化
・猪苗代湖の水を郡山へ! 幹線延長52㎞の安積疏水事業
・県境には二ツ小屋隧道が残る 福島と米沢を結んだ万世大路
・東北唯一の中央競馬場が福島市につくられたわけ
・幕府直営の半田銀山 明治時代は五代友厚が経営
・感染症と闘い続けた細菌学者・野口英世の生涯
・日本酒の金賞受賞数日本一!福島の地酒はなぜすごい?

などなど福島の発展の歩みをたどる。

ほか、巻頭「空撮グラビア」、テーマ別地図、コラム「データでわかる全59市町村」(人口、所得、農業・漁業)、吉田初三郎が描いた福島県の鳥瞰図 など

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