また、地理的に集中豪雨に見舞われやすい諫早は、水害、高潮などの被害に苦しんできた土地でもあります。そこで、昭和61（1986）年から2008年にかけて「国営諫早湾干拓事業」が行われることとなりました。

諫早湾干拓事業のおもな目的は2点。

まずは、地域の総合的な防災機能の強化。高潮、洪水、排水不良への対策です。標高7m、全長約7㎞の堤防を設置し、その内側を調整池とすることで、背後地から池へ円滑な排水が可能となり、池の水位を管理し湛水被害対策としました。

そして、もうひとつの目的が優良農地の造成です。もともと海だった干拓地はミネラル分が豊富であることから、化学肥料の使用をおさえた環境にやさしい農業に適しており、大規模で先駆的な環境保全型農業が営まれるようになったのです。

水害によって生命・財産への被害を受けてきた地元住民や農作物に被害を受けてきた営農者にとってはありがたい施策でしたが、結果的に地域の全員が「めでたし、めでたし」と口にする展開にはなりませんでした。

1997年の潮受堤防の閉め切り後、養殖ノリが変色し、貝の大量死滅など漁業被害が生じたと主張する漁業者が2002年、堤防工事の中止を求めて訴訟を起こしたのが発端でした。

漁業関係者が国に開門調査を求めると、地元の農業関係者や地域住民、漁業者は干拓農地に海水が入って作物が塩害にさらされることなどを懸念して、開門に強く反対しました。

2010年、開門を認める判決を福岡高裁が出しましたが、2013年には長崎地裁で開門差し止め仮処分が決定。

その後2019年6月には、最高裁判所は長崎地裁が行った開門を認めない判決を確定させるにいたっています。しかし、国が提起した2010年福岡高裁開門判決の無効化を求める裁判など、法廷での論争は今も続いています。

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