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公民権運動に、「ジム・クロウ法」が立ちはだかる

アメリカにおける人種差別は生活のあらゆる場面に入り込んでいました。バスや鉄道などの交通機関、学校や図書館の公共機関からホテル、レストラン、バー、果てはトイレや水飲み場まで白人と黒人は分離され、黒人は差別的な扱いを受けていました。

金メダルを獲得しても差別を受ける社会だった

1960年のローマオリンピック・ボクシングヘビー級で金メダルを獲得したカシアス・クレイ(のちにモハメド・アリと改名)の逸話も有名です。故郷のケンタッキー州ルイビルに戻り、レストランに入ろうとしたところを入店拒否されてしまいます。金メダルを見せても無視されたため、怒って川に投げ捨てたほどだったといいます。

黒人差別を合法化した「ジム・クロウ法」

これらの黒人差別は恐ろしいことに合法的に行われていました。
1896年には合衆国最高裁が「公共施設での黒人分離は人種差別に当たらない」と事実上人種差別を容認する判決を下します。すると南部州だけでなく、全米で黒人差別が合法化されたのです。これらは「ジム・クロウ法」と呼ばれます。「ジム・クロウ」とは黒人を侮辱するスラングです。

公民権運動の発端を作った黒人女性

公民権運動の発端を作ったのが、黒人女性のローザ・パークスです。

彼女は1955年12月のある日、アラバマ州モンゴメリーでバスに乗りました。白人専用席のすぐ後の黒人専用席に座りましたが、そこに白人が乗車してきて席を譲るよう促されます。しかし彼女は譲らず、結局警察官によって逮捕されてしまいました。これに怒ったのはモンゴメリーの黒人たちで、黒人と白人が平等な扱いを受けるまで乗車拒否の運動を続けました。

1年の後、彼らは最高裁判所がバスでの人種差別は憲法違反とした判決を勝ち取りました。その運動を呼びかけたのが、キング牧師です。こうして公民権運動は始まっていったのです。

公民権運動が高まり、ワシントン大行進が敢行される

やがて公民権運動がピークを迎えます。1963年8月28日に行われたワシントン大行進です。

キング牧師らの呼びかけで行われた公民権運動のデモ行進は参加者20万人以上を数え、うち4分の1は白人でした。会場となったワシントン記念塔広場で、キング牧師は「私には夢がある。いつの日か私の幼い4人の子供たちが、肌の色ではなく人格の良し悪しで判断される国に住めるようになるという夢だ」という公民権運動の歴史に残る演説を行います。

公民権運動が勝ち取った、人種差別を禁止する「公民権法」

アメリカにおいて人種差別を禁止する公民権法が制定されたのは、1964年7月2日です。これにより、長年アメリカで続いてきた人種差別は終わりを告げることになりましたが、あくまで法の上でのことです。

公民権運動は終わったが、人種差別はまだ終わりが見えていない

その後も南部を中心に黒人差別は終わることなく、むしろ先鋭化しました。
公民権法の制定や人種差別の解消に抵抗する白人至上主義団体クー・クラックス・クラン(KKK)などによる黒人リンチや暴行、黒人の営む商店や店舗、住居への放火なども行われ、それを取り締まる白人警察官は職務放棄する有様だったです。

公民権運動のリーダーだったキング牧師も1968年4月4日に暗殺されてしまいます。人種差別はかくも根深く、21世紀に入っても白人警官による黒人市民への暴力が後を絶ちません。

公民権運動は、アメリカ全土に広がっていった

1955年 モンゴメリー・バス・ボイコット  ~アラバマ州モンゴメリー~

仕事帰りで疲れていた黒人女性ローザ・パークスが、バスで白人に席を譲らなかったために逮捕。この事件に対しキング牧師らがモンゴメリー市民に対し 「バス・ボイコット」を呼びかけ、大きな運動に発展します。

1957年 シット・イン ~ノースカロライナ州ダーラム~

アイスクリームパーラーで人種差別抗議のための座り込みが行なわれますが、不法侵入として逮捕されます。行動に出た黒人男性4名と女性3名は、後に「ロイヤル・セブン」として称えられます。

1957年 リトルロックナイン ~アーカンソー州リトルロック~

アーカンソー州知事が、公立高校に入学する黒人生徒9人の入学を妨害しました。これに対し連邦政府は事態の収拾を命じるが拒否されたため、アイゼンハワー大統領が陸軍を派遣します。黒人生徒は兵士に守られながら登校する騒動に。彼らはリトルロックナインと呼ばれました。

1960年 シット・イン ~ノースカロライナ州グリーンズボロ~

黒人客に食事を出さないドラッグストア、ウールワースのランチカウンターで、人種差別撤廃を訴え黒人たちが座り込みを始めます。この運動は、南部全体へと飛び火します。

1961年 フリーダムライド ~ワシントンDC~

1960年に出た州間バスでの人種隔離政策を禁止する最高裁判決を受け、黒人と白人のグループが権利行使のため長距離バスに乗ってワシントンDCから南部に向かいますが、途中白人至上主義者などの暴力に遭います。

1961年 オルバニー運動 ~ジョージア州オルバニー~

地元の組織の学生非暴力調整委員会(SNCC)と、全米黒人地位向上協会(NAACP)による公民権運動。後に、キング牧師と南部キリスト教指導者会議(SCLC)も加わり、全国的な注目を集めるも成果を得られず頓挫します。

1962年 メレディス事件 ~ミシシッピ州オックスフォード~

ミシシッピ大学に初めての黒人学生ジェームズ・メレディスが入学したことから暴動が起こり、2名の死亡者と多数の負傷者が出ます。

1963年メドガー・エバース 暗殺 ~ミシシッピ州ジャクソン~

全米黒人地位向上協会(NAACP)のミシシッピ州リーダー、メドガー・エバースが白人優越主義組織に殺害されます。

1963年 ワシントン大行進 ~ワシントンDC~

公民権運動に賛同する約20万人が、ワシントンDCに向けて行進キング牧師による「I Have a Dream(私には夢がある)」のスピーチは、今も語り継がれる名演説です。

1963年 バーミンガム運動 ~アラバマ州バーミンガム~

キング牧師と南部キリスト教指導者会議 (SCLC)が展開した、座り込みやデモ行進。運動はConfrontation(対決)の頭文字を取り、「プロジェクトC」と名付けられました。

1964年 公民権運動活動家 殺害事件 ~ミシシッピ州フィラデルフィア~

公民権運動の活動家ジェームズ・チェーニー、アンドリュー・グッドマン、マイケル・シュワーナーの3人地元警察と、クー・ クラックス・クラン(KKK)との共謀により殺害されます。

1965年 マルコム・X暗殺 ~ニューヨーク州ニューヨーク~

2月21日、ニューヨーク市のハーレムで、急進的な黒人解放指導者マルコム・Xが暗殺されます。

1965年 「血の日曜日」事件 ~アラバマ州セルマ~

数百名の公民権運動家たちが、セルマから州都モンゴメリーまでのデモ行進を行いますが、白人警察官が暴力でデモ隊を阻止。流血事件の模様は、テレビ放映され公民権運動を後押しする形になりました。

1965年 ワッツ暴動 ~カリフォルニア州ロサンゼルス~

ロサンゼルスの黒人スラム地区であるワッツで、白人警官による黒人逮捕をきっかけに大規模な暴動が起き34名が死亡、1000名以上が負傷します。

1968年 キング牧師暗殺 ~テネシー州メンフィス~

4月4日、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師が暗殺されます。死の直後、全米各地で暴動が発生しました。

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“合衆国”というように50州からなるアメリカは、それぞれが独自の州憲法、政府組織を持ち、強い個性を放つ、いわばモザイク国家。それだけにアメリカの素顔は日本人にはなかなかわかりにくいもの。アメリカを知るには俯瞰的に眺めるのではなくそれぞれの州について知らないと、国の姿が見えてこないのです。本書では、それぞれの歴史や特徴を豊富なイラストとともに紹介。
さらには、日本でも毎回大きく報じられる4年ごとの大統領選挙について、各州のページで選挙人の数と民主党と共和党どちらが優勢であるか(2020年7月時点)を説明し、巻末には、大統領選挙のしくみ解説や歴代大統領のデータなども掲載。大統領選への理解も深まります。

【見どころ―目次より抜粋】

1章 北東部
■各州紹介
■<歴史解説>自由と仕事を求めた移民たちが、多民族国家アメリカを形成していった。
■<歴史解説>アメリカの根底にあるゴーウエスト思考、東海岸から始まった領土拡大の歴史。
■<コラム>4大プロスポーツのチームがない州

2章 南部
■各州紹介
■<歴史解説>南北戦争とリコンストラクション 敗北した南部州は深い傷を負った
■<歴史解説>人種差別を跳ね返した公民権運動 キング牧師の夢が叶う日はいつ
■<コラム>地下鉄道

3章 中西部
■各州紹介
■<歴史解説>アメリカ2大政党、民主党と共和党はいかにして今日の姿になったのか
■<コラム>アメリカの地勢

4章 西部
■各州紹介
■<歴史解説>銃による犯罪、学校や公共施設での銃乱射事件が止まらない。それでも銃規制が進まない理由。
■Black Lives Matter(ブラック・ライブズ・マター)

巻末資料
■<大統領選挙しくみ解説>民意がストレートに反映される国政、一年かけて国民が自らのリーダーを選ぶ
■歴代大統領
■人口ランキング
■面積ランキング
■銃規制(拳銃の公然携行の可否)/同性婚
■死刑の存続と廃止/消費税率(セールス・タックス)

【監修者】デイビッド・セイン

アメリカ生まれ。証券会社勤務を経て来日。30年以上にわたり翻訳や英語指導に従事、自身が代表を務めるAtoZ 英語学校で教鞭をとるかたわら、英語学習執筆、教材プロデュース、Webコンテンツ制作、動画制作と幅広く英語教育事業に関わる。NHKレギュラー出演ほか、日経・朝日・毎日新聞などにも連載。主な著作に『1日15分18日で英語の達人に 魔法の英語脳トレ』(InteLingo)などがあり、現在まで累計400万部を超える著書を刊行。

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